ヘイゼルはガトーと一緒に葬ってやった。

本当に奴に必要だったのは俺ではなくガトーだった訳だ。

くだらねぇ話だ。

俺は本当に必要なものを見誤ったりしねぇ。

 

 

 

 

* 声 2 *

 

 

 

 

「何をしてるんだ」

「あれ、起きちゃいました?」

 

あの後、既に日も暮れかけていたということで車を走らせた先にあった森で野宿する事になった。

カナリの重症だった俺は治療を受けて間もなく、歩いた疲労とも併せて眠ってしまったらしい。

傍で聞こえた音と漂う匂いに目を開けると、八戒が申し訳なさそうに謝った。

 

「悟空がお腹が空いたと言うので、夜食作ってるんです。

あっ、三蔵もよかったらどうぞ?何も食べずに寝ちゃったからお腹空いてるでしょ?」

「あぁ…そうだな」

 

答えながら周囲を見回す俺を見て、八戒はニコニコ微笑んでいる。

 

「なんだ」

「悟空ならあっちの湖に水を汲みに行ってますよ」

「…別に俺はっ」

「クスッ…」

「何を笑っている…(怒)」

「悟空も三蔵もお互いの心配ばかりしてるなぁと思って」

 

そう言って八戒はニコニコと笑みを浮かべた。

 

「悟空もずっと離れてる間、ご飯食べてるかなぁとか三蔵の心配ばかりでしたよ」

「………」

「まぁ、三蔵の事が頭から離れないのも無理はないですけどねぇ。

忘れようにも三蔵一行!って理不尽に襲ってくる妖怪たちの所為で僕らですら忘れられませんでしたから」

「フン…厭味か?」

「えぇ、厭味です」

「…」

「嘘ですよ。ホントは…ちょっと羨ましかったんです」

「?」

「悟浄は離れれば他の女性のところに行ってしまって、僕の事なんて忘れてしまうんじゃないかと思うんです…

いつも心配なのは僕ばかり…」

「俺は別に猿なんか心配じゃねぇよ」

「そうですか?もっと素直になってもいいと思うんですがねぇ…」

「素直に言ってどうなる?はいわかりました、と大人しく俺のモノになると思うか?」

「思いますよ(きっぱり)」

「!?…何を根拠に…」

「声が聞こえるんでしょ?あなただけを呼ぶ声が。それが唯一の答えです」

「…」

「それにしても…(笑)」

「なんだ(睨)」

「三蔵も素直になることできるんですねぇ(o^∇^o)ノ」

「…うっうるさい///」

 

そう言って立ち上がり湖の方へ向かう俺を八戒は笑顔で眺めていた。

 

「俺はそんなに信用ないのかねぇ?」

「おや、起きてたんですか?」

「あれぇ、八戒さんご冗談がお上手〜気付いて言ってたんじゃないのぉ?」

「えぇ、そうですよ。だってこういう時じゃないと言えないでしょ」

「八戒…」

「僕だって寂しいんですよ…悟浄…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしている」

 

後ろから声を掛けると、猿は笑顔で振り向いた。

まるで俺が居た事に気付いていたかの様に驚いた顔一つせずニッコリと笑う。

 

「月見てた」

 

悟空の指の先には湖に映った月。

俺は悟空の隣に腰を下ろし、タバコに火をつける。

 

「なぁさんぞ〜」

「なんだ」

「何で俺はあの岩山の中で三蔵を呼んでたのかなぁ?」

「知るかっ」

「月ってさぁ、太陽の光を受けて光ってるんだって。八戒が言ってた」

 

突然出てきた関係のない話に訝しく思いながら悟空に目をやると、悟空は月ではなく俺を見ていた。

 

「三蔵は多分俺にとっての太陽なんだ」

「?!」

「一人で生きていくことはできるけど、太陽がないと輝く事が出来ないんだ。

なんつーか、楽しくないんだよね…だから俺は三蔵を呼んでたんだと思う」

「……」

「んと…つまり〜俺はやっぱりこうやって三蔵と一緒に居る方がいいってこと///んじゃ、俺戻る」

 

言うだけ言って立ち上がろうとする悟空の手を引っ張ると、気を抜いていた為か簡単に俺の懐に落ちてきた。

 

「さっ三蔵??」

「自分だけしゃべるだけしゃべって行こうとするんじゃねぇよ、このバカ猿が…」

「うぅ…バカ猿って言うな!」

「そんな上目遣いで言ってもなんともねぇよ」

 

腕の中でバタバタもがく悟空をギューッと抱き締め、耳元で囁く。

 

「そういうの、なんていうか知ってるか?」

「へ?」

 

不思議そうに顔を上げる悟空の唇をそっとなぞり、静かに顔を近付ける。

何をされたのか理解できずに固まっている悟空の耳元に再度囁く。

 

「好きだ」

「え…」

 

固まった悟空を残して、俺は八戒たちのところへ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?悟空はどうしたんですか?一緒だったんでしょ??」

「さぁな」

「三蔵サマいけないんだぁ〜ペットの不法投棄はダメなんですよぉ?」

「(怒)…殺されてぇか?」

「まぁまぁ」

「八戒!躾がなってねぇぞ!!」

「躾ってなんだょ!俺は猿と違ってペットじゃねぇ!」

「フッ…似たようなもんだろ」

「なんだとぉ」

「ほら三蔵も悟浄もやめてください!」

『うるせぇ!』

「ほらほら悟空帰ってきましたよ、ご飯にしましょ」

「フンッ」

「おい悟空、どこまで水汲みに行ってたんだよ?」

「ごめん」

「おや悟空、どうしたんです?顔、真っ赤ですよ」

「なんでもないっっ///」

 

それから数日間、三蔵の顔を見ると赤面する悟空と嬉しそうに微笑う三蔵、

面白そうに三蔵と悟空を眺める八戒にわけのわからない悟浄というやりとりが続く事となる。