あいつの声が聞こえなくなったのはいつからだろう…

拾ってきたばかりの頃、あいつを独りにして出掛けると、決まって俺を呼ぶ声がした。

その度に、俺は自由に出掛ける事も出来ないのか、と思ったものだ。

が、それも悟空を連れて行けば無くなる事が判り、それからはどこへ行くにも一緒だった。

悟浄と八戒に出会ってからは悟空一人であいつらのところに遊びに行くようになり、

そのときだけは声が聞こえなくなった。

ただ帰ってみて俺が居なかったり、何も言わずに出て行ってしまうと、

居なくなった親猫を探す子猫のように何度も何度も俺を呼んだ。

この旅を始めて数ヶ月…

俺は今、悟空と一緒に居ない。

 

 

 

 

* *

 

 

 

 

「あぁもぅ!三蔵三蔵うっせ〜んだよっ!!」

「覚悟しろ!三蔵いっこ…グエッ」

「だ〜か〜ら〜」

『違うっつってんだろ(って言ってるでしょ)(キュ〜〜)!!』

 

--せっかく頭の中で考えないようにしてるのに…

--三蔵のやろー、ヘイゼルの方を信じるなんて信じられねぇ!ぜってぇ許してやらねぇからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人になって初めて判る。

悟空の存在がどれほど自分の中で大きなものだったのか。

 

「三蔵はん、アンタにはワテが必要なんです」

 

--違う、俺に必要なのはお前なんかじゃない!悟空!!何で俺を呼ばねぇんだ…

--もう一人じゃないからか?俺はもう必要ないのか?

 

ふと、八戒の言葉が蘇る。

 

「守らなくてもいいものを望んだのはあなたでしょ?三蔵」

 

「ちっ」

小さく舌打ちし、先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三蔵…メシちゃんと食ってるかなぁ?」

「一人で居ると何もしませんからねぇ、あの人。心配なんですか?」

「うん…」

「ほっとけって、あんな奴」

「悟浄!」

「わりぃ…」

「なぁ、やっぱり戻ろうぜ?」

「あぁ?!」

「心配ってのもあるけど、こうやって関係ないのに襲われるの腹立つじゃん!

一発ぐらい殴らねぇと気がすまねぇだろ??」

『そうだな(そうですね)(キュ〜)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何発打たれたのか…意識が朦朧としている。

ふと猿の声が聞こえた気がした。

いつも俺を呼ぶ声とは違う…心の底から叫ぶ声。

 

--あぁ…お前はいつも呼んでいたのか…

--一緒に居る事に慣れすぎて、俺がお前の声を聴こうとしてなかっただけか…