--忘れるな。10年後の俺は……
「ん〜、何だろう?何か大事な事を忘れてる気がする……何?リボーン」 「……なんでもない」
最近リボーンが自分を見つめている事が多い。 何を考えているのかいつもならわかるのにこれだけはオブラートに包まれているかのように読めない。 ただその視線はいつもより熱くて、ねっとりと自分を絡め取られそうだ。
10年前の僕。10年後の君。--10年後
ボワン…
と、突然煙とともに目の前にいたリボーンが消えて、気付けば目の前には小さなリボーンがいた。
「チャオ、リボーンvv」 「……ツナ…か?ってことは俺はまだお前と一緒に居るのか…」 「うわぁ〜懐かしいなぁ〜」
そう叫びながらツナは目の前に現れた小さな少年を嬉々として腕の中に収める。 お風呂に入っていたのでスッポンポンだったり、濡れていたりというのは関係ないらしい。 一瞬何が起こっているのか全く理解が出来ず、固まってしまったりボーンを ギューッと抱き締める姿は由緒正しきマフィアのボスとは誰も思わないほど乙女チックだ。
「気安く俺に触るんじゃねぇ…」 「ちぇ〜」
悔しがるツナを押しのけ、不機嫌丸出しで銃を構える。 そんなリボーンを怖がるでもなく、ツナは面白そうに笑う。
「何が可笑しい…」 「いや〜そう言えばこうやって俺に触られるの嫌がってたよな〜と思ってさ」 「嫌がってたってことは今は違うのか」 「う〜ん。今でもオレから触られるのは嫌がるけど、自分からオレに触れるのは大丈夫みたいだよ? いつからだったけなぁ〜?急にさぁ、オレのベッドに潜り込んで来て メチャクチャびっくりしてるオレなんてそっちのけで寝ちゃってさぁ〜多分それからだよねぇ」 「……俺も成長したもんだ」 「??にしても…会ったばかりの頃はこんなにちっちゃかったんだよねぇ〜今じゃ、大きくなっちゃって… なんか可愛いなぁ〜あっそうだ!」
ポンッと手を叩くと、ツナはテキパキとコーヒーを淹れつつ、 バスルームからバスタオルを持ってくると嫌がるリボーンをゴシゴシと拭く。 ある程度拭いたところでバスタオルをリボーンに渡すと、自分はクローゼットに入りゴソゴソし始めた。 何をしているのか気になり、リボーンがツナが入れたコーヒーを片手にクローゼットに近付くと、 ツナは嬉々とした表情で、もう使うことのなくなった小さな洋服を差し出した。
「ハイ、これ。裸のままじゃ風邪引いちゃうからね」 「…俺の服か?」 「昔お前が着てた服全部取ってあるんだよねぇ〜」 「…バカか。もう着ねぇのに必要ねぇだろ」 「え〜でもなんか捨てられなくってさぁ。ほら、これなんてカワイイよねぇ〜」
これなんかさ〜と懐かしそうに服を取り出してきては思い出話をするツナが 本当に幸せそうな顔をするものだから、なんだか今が不満なんじゃないかと心配になった。 とりあえず、差し出された服を素直に着ると、ソファに腰掛けて飲みかけのコーヒーを啜る。 ツナと言えば、リボーンの行動を一部始終眺めてはニコニコと微笑んだり、 何かしら悩んでいる素振りを見せたりしていた。
「なんだ?」 「ん〜いや、なんかホント懐かしくてさぁ〜オレも結局ボンゴレのボスになっちゃって お前もでかくなっちゃったし、昔みたいに一緒にどっか出かけたりとかもなくなったからさ。 あの頃は良かったなぁ〜ホント」 「後悔してるのか?」 「してないよ、全然。リボーンもなんだかんだ言いながらオレの傍にいてくれるしね。 そういえば、最近リボーンが何か悩んでるみたいなんだよね。何か知ってる?」 「そんなこと俺が知るかよ…」 「だよねぇ…やっぱオレが忘れてる事柄に関係してるのかなぁ?早く思い出さないとなぁ〜」
訳のわからないことを呟いているツナに忘れてる事ってなんだ、と尋ねようとした瞬間 突然派手な音を立てて窓が開いた。 何事かと窓に目をやると、姿は違えどどこか見覚えのある顔がいた。
「お〜い、ツナいるかぁ?」 「あ〜また窓から入ってきて…なんで普通に玄関から来れないのさ?」 「そんなめんどくさいことできるかよ」 「いや、多分窓から入ってくる方がめんどくさいから……」 「っつーか、なんか懐かしいのがいるじゃねぇか、コラ」 「…お前、コロネロか?!なんかでけぇな…」 「ああ、お前はまだ知らねぇのか。俺らアルコバレーノは成長が普通の人間より早いらしいぜ。 っつーか、アイツこんなチビだったっけか?」 「あん?なんだと…てめぇの方がチビだっただろ」 「あんだと、コラ。お前なんて髪の毛と帽子で誤魔化してただけだろうが」 「…コロネロの方が大きいのになんかいつものリボーンとのやり取りに見える……」
ハァと嘆息し、ツナは執務机に腰掛けるとぐりぐりとコロネロと頭突きしあっている 小さなリボーンをジッと観察してみる。 と、思ったよりもリボーンの表情がよくわかるのに驚いて目を細める。
「昔の方が単純でわかりやすかったんだ…全然気付かなかった。 そういえば、最近こうやってリボーンを見つめる事ってなかった気がするなぁ。 そのせいかなぁ?最近リボーンのこと全然読めなくなったのって。 リボーンもあんまり俺の方見ないし…」
既にぐりぐりをやめていた二人は独り言を漏らすツナに目をやる。 それに気付き、ツナはアハハ…と笑いで誤魔化す。
「ツナ、別にリボーンなんか見なくてもいいぞ。俺を見ろ、コラ。」 「そうだね。コロネロはお客様だもんね」 「…そういう意味じゃないんだが…っつーか、リボーン…てめぇ何やってんだ、コラ」 「…なんかムカついた」
なんだかよく分からないが胸がモヤモヤっとしたリボーンは、 気付けばコロネロに銃の照準を合わせていた。 その行動にコロネロはククッと笑った。
「ふん、ガキが言ってくれるじゃねぇか。ちっちぇ時からてめぇはいっつもそうやってモヤモヤしてたよな。 そういうのなんていうか知ってるか、コラ?」 「なんだ…と」 「それの正体がわかってる分、俺のほうがお前より大人だぜ。 ま、寧ろそのまま気付かねぇ方が俺としてはラッキーだけどな」
勝ち誇ったようなコロネロの表情が非常に腹立たしく感じた。 それと同時に自分が知りたくても知る事の出来ないこのモヤモヤを知っているヤツが ここに存在している事に悔しさを覚えた。 と、突然手が伸びてきたかと思うと、気付けばリボーンはツナの腕の中に居た。
「そろそろ時間だね…ちょっと寂しいなぁ〜」 「けっ、さっさと帰っちまえ。っつーか、コイツが帰ってもアイツが帰って来んのか…」 「もう、ホントは仲いいくせに」 『仲良くなんかねぇぞ!!』 「…・・・そんな声揃えて言わなくても…」
時間が来たらしい、徐々に煙に包まれる。 不覚にも心地よいと思ってしまったツナの腕の中…少しだけ頬を摺り寄せてみた。
「悪くねぇ…」 「?」
ボフン、と音を立てて腕の中のリボーンは帰って行った。
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