「四代目!!奥様がっ、奥様がぁぁぁぁあああ!」 「何?(-"-)」 「奥様が産まれました!!」
執務室で執務をこなしていた注連縄の耳に飛び込んできた部下の声に、 さっきまで執務のせいで険しくなっていた表情が一気にパッと輝き、止める間もなく執務室から姿を消した。
「奥さんが産まれてどうすんの、このバカカシ!…螺旋丸っ!」 「グハッ…」
勿論バカ弟子へのツッコミも忘れずに。
弐 * 娯楽2 - ENTERTAINMENT2 -
向かうところは愛する妻と愛しい子供の元。 と、森の中を駆ける注連縄の目に一瞬映り込んだ光景に、体中から血の気が引いていった。 里を含むこの辺一体を守護する鎮守の社が粉々に砕け、御神体が跡形もなく消えていた。 と同時に里の方から凄まじい声が響いた。
うぉおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおお!許さんぞぉおおおぉぉぉ!!
注連縄は向きを変えると家とは逆方向へ走った。 その姿は父親の姿ではなく、里を守る四代目火影の姿だった…
物語は正にクライマックスを迎えようとしていた。 九尾の力は守護神に相応しく人間では到底抑えることなど出来ず、 里で最も優れた忍とされる四代目の力ですら全く敵うところがなかった。 数年前の光景を思い出し唇を震わせる者、拳を握り締める者、涙を流す者も居た。 演じているのがこれから九尾を封印される赤子なのだということも忘れて… 四代目は部下の一人、影を扱う者の傍に近付くと耳打ちをする。
「少しだけ此処を頼む」
その言葉から全てを理解するのは頭の回転の速いその男にとって容易いことだった。
「四代目っ!!」
数十分後… 四代目は一人の赤子を抱いていた。 己と同じ金色の髪が薄っすらと見える…まだ湿っている赤子が冷えてしまわない様に 柔らかい布で身体を覆い、大事そうに抱き締める。 生まれたばかりの世界で、何も見えない世界で、母親の温もりから引き離された冷たい世界で 心細いだろうに…恐ろしいだろうに… その赤子は泣かなかった。 まだ開かぬ瞼に四代目は優しく口付ける。 願わくばこの瞳が初めて見る世界は今のような真っ暗な暗雲立ち込め、紅い炎が立ち上る地獄絵図ではなく 真っ青な美しい空に、暖かい太陽に、美しい緑の溢れる世界であるように…
「その為にはキミの力が必要なんだ…九尾に打ち勝つだけの強い力。 僕の力と彼女の能力を受け継いだキミの力が必要なんだ…」
その言葉に皆が息を呑んだ。 ウソダ… パラパラと聞こえる短いその単語を聞き取りながら、ナルトは苦い笑いを浮かべる。 ナルトの様子に四代目は後ろから抱き締めていた腕を強めた。 そして命を賭けた封印の瞬間がやってくる。
「ごめんね、ナルくん…パパもママもいなくなるけど、でもずっとキミを見ているから。 産まれてきてくれてありがとう…パパもママもみ〜んなキミを愛してるよ」
<終>の文字が出ても誰一人席を立つものはいなかった。 ところどころからグスッと鼻を啜る音が聞こえる。 どこからともなくパチパチと拍手が鳴り、それは徐々に大きくなっていく… 暫くの間その拍手は鳴り止む事はなかった。 それからというもの、噂は噂を呼び映画は満員御礼、里で見ていない人間はモグリだといわれるほど 大盛況となり、里内興行成績NO.1を記録した。 そして… 真実と向き合うことで、里の宿敵への憎しみから里を守った子供への愛しさへ… 人々の心は少しずつ、ほんの少しずつだが変化しつつあった。
|