その翌日

 

「うずまきナルトは昨晩…死んだ」

「…誰かに殺されたのか?」

「そうよ…じゃないとナルトが死ぬ訳無い!!」

 

突然三代目の口から告げられた事実。

視線は三代目に向かっていたとしても、その言葉が…気配が俺が殺したんだと責める…

あながち間違っては居ないがな…と自嘲気味に笑えば、すぐさまサスケとサクラは

やっぱり…という顔で俺を睨んだ。

 

「カカシが殺したのではない。あれは確かに自殺じゃった…」

「まるで見ていたかのご様子ですね」

 

そう言えば、三代目もまた俺を睨みつける。

皆に恨まれ、憎まれるとはこういうことか…いずれこの憎しみはナルトの友たちへ

派生していくことだろう…

俺も少しはナルトの気持ちがわかるかもしれないな。

 

「あれはナルトが望んだ事じゃ…だからお主を責めたりはせぬ。しかし、儂はお主を

赦す事はできぬよ…」

 

それは俺も同じだから…俺も俺が許せないから…三代目の気持ちは痛いほどわかった。

 

 

 

 

* 夢境 - SLEEP -

 

 

 

 

数年後

「ということで、本日付で里内警備を仰せ付かりました〜綺羅星<キラボシ>で〜す」

「兄の宵闇月葉<ヨイヤミ ツクノハ>だ。よろしく頼む」

 

最近里内で次々と里人が殺される猟奇連続殺人事件が多発している。

といっても最近始まったわけではなく、何年か前から決まって慰霊祭の時に起こる。

その為、死んだ九尾の呪いだとか、ナルトがどこかで生きていて弱い里人を次々と殺し

ているのだとか下らない噂が流れ始めた。

その騒ぎは年を経るごとに大きくなり、里も人手不足ながらそれを放置する訳にもいか

ず、特別警護班を結成した。

その際に暗部から派遣されたのが月葉と綺羅星という兄弟だった。

兄の月葉の肩に置いた腕に顎を乗せ、気怠そうに挨拶をする綺羅星。

それとは正反対にシッカリ者そうな月葉は弟の髪を柔らかく撫でると、ことの詳細を話し始めた。

 

「ここ数年慰霊祭の度に起きている殺人事件なのですが、手口の鮮やかさから間違い

なく相当な手だれの忍に間違いありません」

「しかし忍ならば何故死体を残すなんて莫迦な事をするんだ?」

「馬鹿はアンタだよ〜」

「こら、綺羅星!」

「ちぇ…月葉だってそう思ってるくせにぃ〜まぁいいや、教えてやるよ。

あれは見せしめ。次はお前だっていう犯人からのな〜」

『な…どういうことだ?!』

「最近、犯人に一つの法則が見えてきましてね…」

『法則?』

「ま、それは企業秘密ってやつだけどな〜」

「大体犯人の目星もついていますので、皆さん一応安心して貰って大丈夫ですよ」

 

あからさまに刺々しい弟とどこか棘を含んだ兄の口調…それでも誰一人として彼らを

悪く言うことはなかった。

それはその美貌と溢れんばかりの威厳の為せる技か…

だが、唯一つだけ…誰もが不思議に思うことが一つ…

流れるような美しい金髪を持つ兄弟。

兄は紅玉の瞳、しかし弟のそれは深海の藍を湛えていた…

その容姿から連想されるのは四代目火影と…そして、死んだとされているあの化け狐だけ…

誰からともなく漏れた声。

 

『その髪は…染めているのか?それとも…』

「ああ、この髪ね」

 

嘲りを含んだ笑いに一瞬場が凍る。

それを柔らかく溶かしてくれたのはやはり兄の月葉で。

 

「これは地毛なんですよ。実のところ、我々は四代目の縁の者でして」

「月葉!!」

「別に間違ってないだろう?」

 

四代目…その人物の名は変わらず有効らしい。

一瞬にしてその場は歓喜の渦に巻き込まれた。

それまでの緊張など嘘のように、これで里の民は安心して暮らせると…

 

そろそろ落ち着いたと思って久々に出て来てみれば、やっぱり里は変わらねぇな…

人の心はそれほどまでに変わりにくいものなのだよ

 

綺羅星の忌々しげな呟きは月葉だけに届き、そして風に流れて消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

はたけカカシ。

以前は里一の稼ぎ頭と称された男は、あの後すぐに担当上忍を外された。

本人は暗部に戻る事を強く希望したが、それは火影、総隊長共々拒否された。

恐らく死を希望しての事だったのだろうが、そう簡単に死なせる訳にはいかない…

当然任務の量も極力減らされた。

任務に出れば無茶苦茶に、そして愉しそうに人を殺し、その血に塗れる。

ただ表面上はいつもの無表情を浮かべて普通そうにしているので誰にも気付かれ

はしないのだけれども…

それでも自然と人は彼から遠退いていった。

それもその筈だ…名家、旧家の子供たちから派生した憎しみの芽は今や里を巻

き込み巨木へと成長した。

中には九尾を殺してくれた英雄だと持て囃す者も居たが、結局は憎を必要とする

里の人間…いつしか姿を消していった。

 

「白狐…護衛対象だったナルトを殺した俺を憎むのか…

ならばいっその事俺を殺してくれればいいのに…俺は自分では死ぬ勇気なんかないし…

ナルトのように強くはなれないよ…ナルト、これは最高の仕返しだよね…ねぇナルト?」

 

一人呟きながら忍刀を研ぐ姿は憐れを通り越して、不気味なほどである。

それを遠眼鏡の術で眺めている綺羅星は苦しそうに眉間に皺を寄せた。

 

「アイツをあんなにしたのはオレか?オレが消えた所為で、アイツが里の憎しみを背

負ってしまったのか?こんなの聞いてねぇよ…オレずっと何も知らなくて…」

「お前は悪くない…何故お前があんな奴の為に泣く必要がある…」

「だけど、凱亜…オレはやっぱこんなの見てられねぇよ!これはやり過ぎだ…」

 

翌朝に慰霊祭を控えた深夜の里…綺羅星は煙と共にその場から姿を消した。