「もういい加減にしろよ…そんなことをして何になる?」

「熊もいい加減しつこいなぁ〜何度言ったって無駄だよ」

 

カカシの背後に立ち声を掛ける。

振り向きもせず答えたカカシは直ぐに不思議そうに首を傾げ、そしてクスクスと笑う。

 

「あれ〜?そういえば熊はもう居ないんだったっけ…とうとう幻聴まで聞こえるように

なっちゃったのかなぁ〜」

「いい加減にしろ…そんなことをして一体何になるっていうんだ…」

 

綺羅星はもう一度同じ言葉を繰り返してみる…

カカシはしょうがないなぁとばかりに肩を竦め、独り言のように話し始めた。

 

「だってナルトが帰ってこないでしょ?ナルトはこの憎しみだらけの世界に飽きちゃった

から居なくなっちゃったんだもん。もしナルトを憎む奴が居なくなったらナルトは絶対に

帰って来るんだよ〜その為に自分が憎まれたってなんだっていいんだ。

ナルトの居ない世界よりは全然マシ。これは俺がずっとナルトに与えてきた苦しみの

せめてもの償いなんだよ。ナルトが安心して帰って来られる世界を俺が作るの」

 

 

 

 

* 夢幻 - FANTASY -

 

 

 

 

居ない人に向かって話すなんてそろそろ重症かな…とカカシは可笑しそうに笑った。

その姿は酷く痛々しくて、でも綺羅星…否、ナルトは嬉しかった。

カカシはちゃんと自分の死の意味を知っていてくれた…そして自分の為に自分に仇為

す人々を殺していた…

殺人の特徴が見えた時、犯人はカカシだと直ぐにわかった。

だけど、その理由は死んだ九尾の復讐だと…更に里の憎しみを増長させる為なのだ

と思ったのに…そうではなかったらしい…

カカシはオレの気持ちを唯一わかってくれていた。

オレが里が変わってくれることを願っていた事を・・・

オレが死ねば里は憎むモノを失い、憎しみの無い平和な世界になると思った。

それほどオレを見る目は冷たく、酷く醜かった。

じいちゃんの愛する里で唯一じいちゃんを苦しめ、そして里を汚している感情が無くなれば

と願った筈なのに…数年振りに現世に出てみれば里に一点の変わりも無く、

自分の愛する人が次なる里の犠牲者になっていた…

 

「もうやめろ…オレはここに居るから」

 

フワリと忍刀を背負い出掛けようとするカカシの前に立ちはだかる。

 

「え?」

「どこへ行くつもりだ?もう行く必要はない」

「あれ〜いつからいたの?確か綺羅星だったっけ…就任式の時と話し方違わない?

それに変なこといわないでよ…まるで自分がナルトみたいに」

 

ナルトはカカシの口布を下ろすとその唇に慣れたように口付ける。

甘い、とても甘いキスをする。

 

「オレはここに居るから…もう行かなくていいんだ、カカシ先生!」

「ナル…」

 

そしてナルトは自分の犯したミスに気付き、チッと舌打ちすると厳重な結界を張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナルト…じゃと?!あれは綺羅星だ…ナルトの筈がない!綺羅星はナルトが生まれる

前からずっと…ずっと?」

 

ナルトが結界を張るまでの一部始終を見ていた三代目はその状況に頭が混乱しつつも

直ぐに暗部総隊長を呼ぶ。

そしてそれからものの数秒で総隊長が到着する。

 

「暗部統括総隊長 黄榴、只今参上いたしました」

「おお…イルカよ、よくぞ参った…今すぐ宵闇兄弟の記録を調べてくれ!!」

「綺羅星と月葉の…ですか?」

「そうじゃ…もしやすると儂らは記憶操作されていたのかもしれん…」

「記憶操作?!一体誰にです?俺たちにそんな術が掛けられる人間などナルト以外

に存在しな……まさか…」

「そのまさかじゃよ…さっきまでカカシを覗いていたんじゃが、そこに現れた綺羅星が自分

をナルトじゃと…」

「そんなまさか…ナルトは確かにあの時…」

「だが死体はあがっていない…」

「それにカカシのところになんか行くわけがない!!」

「ナルトはカカシを好いておった…愛する者のあの姿を見ていられなかったのだろう…」

「そんな…ナルトによく似た綺羅星に殺されればカカシを苦しめることが出来ると思った

のに…全てが間違いだったというのか」

「もうよい…それよりも直ぐに調べるのじゃ!!」

「その必要は無いぞ、三代目よ」

 

気配など全く感じなかった…これが敵ならば自分の命は無かっただろう…

自分の背後に音も無く現れた男をイルカは振り返る。

 

「月葉…」

「久しいな…イルカよ」

「その…声は…凱亜…なのか?」

 

小さく音を立てて煙が月葉を包み込み、その中から現れたのは紛れも無く凱亜で…

長い銀色の髪を首に巻き付け、九つの尾を揺らしながら凱亜は三代目に頭を垂れる。

 

「凱亜…お主…」

「ナルトはあの時本当に死ぬつもりだった…しかし我はナルトに死んで欲しくなかった…」

「自分が死にたくないからか?」

「我は既に長いこと生きた、死したとしても悔いは無い。だがナルトはどうだ?

余りにも若過ぎる…せっかく愛する者とも思いが通じたというに、それすらも享受するこ

となく死んでしまうなど悲しすぎるではないか?」

「思いが通じた?何を言っているんだ、凱亜…カカシはナルトを憎んで…」

「憎んでいたさ…最初はな。ナルトが死のうとした時、カカシは死に物狂いで止めようと

した…それにカカシはあの時、ナルトを愛していると言おうとした…」

「カカシが…ならば、儂らのしていたことは…」

「そん…な…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナルト…ホントにナルト?」

「オレがわからない?」

「でもだって…」

 

カカシはナルトの頬に触れる。

ナルトはクスリと笑うと説明してやる。

 

「凱亜…あ〜九尾を外に出してる時はヒゲ消えるんだよ」

「へ〜そっかぁ…もしかして、あの月葉がその…凱亜?」

「そうだよ」

「そ〜なんだ…俺ね、ナルトが好きだよ」

「カカシせんせー…」

「やっと言えた。あの時言えなかったから」

「?」

「ナルトを愛してる…って言おうとしたらナルト何も聞きたくない!なんて言うんだもん。

ずっとあの時言えなかったこと後悔してた」

「ごめん…」

「なんでナルトばっかり謝るの?謝らなきゃいけないのは俺でしょ?ごめんね、ナルト。

ずっとナルトを苦しめてごめん…生きててくれてありがとう」

 

カカシの瞳からハラハラと零れ落ちる涙はキラキラ光ってとてもキレイだった。

それを指で拭ってやると、ナルトは優しくカカシを抱き締めた。

 

「もう泣くなよ…オレずっとあんたの側に居るから…もう一人ぼっちになんてさせないから」

「ホントに?」

「ホントに」

「ホントにホント?」

「ホントにホント…って、ベタなカップルみたいな事やらせんなよ…」

 

プッと噴出して二人で笑う。

それでも互いの身体は離さずにくっついたまま…相手の温もりを一生懸命に抱き締める。

いつの間にかカカシの腕の中に納まったナルトは、幸せそうに微笑む。

 

「なぁ、カカシせんせー」

「な〜に、ナルト?」

「一緒に里出よう」

「え…」

「イヤ?」

「俺はナルトと一緒ならどこにだって行くけど、だけど里抜けなんてしたら追忍が…俺ナルトを

ちゃんと守れるか…」

「問題ねぇよ、オレが強いから」

「そうなの?」

「だって、昔の暗部総隊長 白狐はオレだから」

「そうだったの?!」

「そうだったの〜オレ強いよ?っていうか鍛えてあげるよ、カカシ」

「え〜楽しいラブラブ旅行じゃないの〜?っていうか、呼び捨てっていいね〜

もっとカカシって呼んでよ、ナルト」

「バカカシ…」

「ヒドイ…」

「なんかちょっと調子戻ってきたんじゃねぇの?最初はお化けみたいだったから焦った…」

「失礼だな〜ナルトが居れば俺は幸せいっぱいになれるの!だからずっと側に居てね」

「はいはい」

「何そのやる気の無い返事は!!」

 

その日は珍しくカカシの家から楽しげな笑いが響いていた。

そして猟奇連続殺人も犯人は捕まらないもののその後起きる事はなかった。

ナルトは綺羅星としてカカシと共に任務という名目で旅に出た。

任務期間は無期限。

カカシに対しての償いということなのか…三代目は快くナルトたちが出て行くことを承諾した。

里がいつかナルトたちの望むような里になったら帰って来るように、と告げて…

 

 

 

 

 

 

 

「よ〜し、んじゃしゅっぱ〜つ!って凱亜何してんの、行くよ?」

「わかっているが…なんだかお邪魔だと思ってな…」

「今更何言ってんの?夢幻としてカカシのところに通ってる時も一緒だったじゃん」

「え゙…そうなの〜?!」

「う…」

「ということで、改めてしゅっぱ〜つ!!」

 

どうか彼らの行く末が幸せなものとなりますように…