カカシは何も聞かなかった…瞳の色を変える為の部分変化という特殊な術を見ても何も言わなかった。 ただ今までよりオレの傍にいる事が多くなったと思う。 そして遠くから監視する事もなくなった。
弐 * 再不斬 - ZABUZA -
波の国に到着したオレは誰にもわからない様に影分身を作り、それを置いて朱寂の元に向かった。
「やっと来たか」 「悪ぃ、あれから再不斬に襲われてな。思ったより足止め食らわされた」 「写輪眼のカカシも大したことないな…」 「…オレも昔奴にそう言った事がある」 「昔…?お前カカシに会ったことあったのか?」 「一回だけな。暗部になった最初の日。あの日より随分強くなったよ…あいつは…」 「ふ〜ん…って、その日は確か満月の夜じゃ…」 「ああ…紅眼見られた。だけどそのお陰でバレてなかったみたいだけど…」 「バレてなかった…ってそれじゃもう知ってるみたいじゃねぇか」 「昨日見られちった」 「お前、暢気にそんな…」 「別に暗部だってバレた訳じゃねぇし…九尾の事は元々知ってるからいいだろ」 「ったく…」 「で?首尾は」 「誰に言ってる」 「なんか…段々ネジに似てきたな…」 「なっ、んなことねぇよ」
ハハハ、と笑いながらナルトは素早く印を組むと暗部姿に変化する。
「んじゃ、行きますか」
「俺が回復するまでの間お前たちには修行をしてもらう」 『え?!』 「っていうことで、木登り頑張ってね。その前にナ〜ルト、お前はちょっとこっちおいで」 「何だってばよ?もしかしてオレだけに特別な技教えてくれるってば?」 「なわけないでしょ…本体はどこにいるの?」 「…なに言ってるってば、先生…」 「ふ〜ん…じゃぁ、ここでチューするよ?」 「サクラちゃん!サスケ!!ここに変態が居るってば〜って聞いてねぇ…」 「で?」 「オレも知らないってば」 「へぇ…ホントに影分身なんだ…」 「げ…」 「もういいよ〜ナルト。お前も修行を開始しろ」 「やばいってば〜本体に怒られる…」
走って行くナルトを目で追いながら、カカシは小さく嘆息した。
「ナ〜ルト、お前は一体何者なんだろうね…」
「にしても、総隊長自らこんなとこまで出て来ちまっていいのか」 「しょうがないだろ、表向きは下忍任務だし、こんな長期間影分身に行かせる訳にも行かないし」 「まぁそりゃそうだけどよ」 「それに里にはネジもシノもいる。じいちゃんもいるし、心配ない」 「結構信用してるんだな…」 「当たり前だ。オレが認めた奴らだからな、あいつらもお前も」 「ったく、そうやっててめぇはいつも恥ずかしい事言いやがって…めんどくせぇ奴…///」 「また照れてるのか?」 「うるせぇ…お前もそういうとこネジに似てきたんじゃねぇのか?」 「違う、ネジがオレに似たんだ」 「…そうだったのか…てことはオレもナルトに似てきたって事だな」 「いや、お前はネジに似たんだ」 「なんでだよ!!」 「朱寂はからかうと面白いな…ネジの言う通りだ」 「くそぉ…ネジ帰ったら覚えとけよ!」
「結局木を登りきっても帰って来なかったか…ナ〜ルト、どこに居るの?」
ナルトの影分身は何をやっても消えることはなかった。 影分身をさも本物の様に見せるのは下忍程度に出来るレベルではない…俺ですら不可能だ。 それをどこで何をやっているのかわからないが維持し続けている。 それはつまり…ナルトは俺より強い。 影分身は昨日限界まで身体を使い切った為に、普通そんなことしたら影分身は消えるが…ぐっすり眠っている。
「ナルトをよろしくお願いします」
ナルトを置いて俺たちは橋へ向かった。
事態は思ったよりも深刻だった。まだ完全に回復していなかった俺は苦戦を強いられていた。 サスケも写輪眼に少しずつ目覚め始めているが、あの白という少年の方とはレベルが違いすぎる… 俺の中では未だ勝利の目処は立たないでいた。 ナルトがいればどうにかなったのだろうか…そう思った時だった。
「うずまきナルト、ただいま見参!」 『ナルト!?』
作戦その一:派手な登場で敵味方全員の目を惹きつける。 作戦その二:意外な動きで敵を撹乱していると思わせて幻術仕込み。
「準備完了」 「ナルト何を言ってい…」
サスケ、サクラ、タズナが次々と倒れていく中、カカシが驚いたようにオレを見ていた。
「チッ…写輪眼にはやっぱ効かないか…」 「ナルト…これどういうこと?」 「ごめん…カカシ先生。今ちょっと時間ないんだ…朱寂!」 「遅ぇ…どれだけ待たせる気だ」 「悪ぃ」 「お前ら何者だ…」 「桃地再不斬さん、それと白さん…わかっていると思いますが、そこから一歩も動かない方がいいですよ。 一瞬でバラバラになっちゃうんで」 「な…何を言ってるんです!」 「白、動くんじゃねぇ…こいつの言ってる事は本当だ。自分の周りを良く見てみろ」 「糸…?」
白がそっと指で糸に触れただけで、血が溢れ出す…その血が糸を伝い辿り付いた先は…
「…ナルト?!」 「では話をしましょうか?」 「話?!」 「あぁそうそう、その前にアンタたちを雇ったガトーファミリーは既に壊滅した。 即ちこの戦闘にこれ以上の意味はないので、悪しからず」 「なんだと…壊滅…そんなバカな、あそこには俺の部下たちも…」 「あぁ、どうりで育てればいい忍になりそうな奴が居た訳だ…もったいねぇ…なぁ朱寂〜」
視線で朱寂に生存確認をするが、否定するように首を振った。
「無理。全部処理済」 「…そうだよなぁ…ごめん、全滅」 「お前たちがやったのか…一体…」 「俺たちの任務はガトーファミリーの壊滅。更には下忍7班の護衛まで押し付けられて気分最悪」 「まぁそう言うな朱寂。帰ったら一楽奢るから」 「あぁ?お前みたいに食いもんで釣られるかよ…お前が隠し持ってる禁書10冊で許してやる」 「チッ…バレてたか…」 「どれだけ一緒に居ると思ってやがる」 「あの…お話のところすみませんが、ガトーが居なくなったということはわかりましたが、 何故僕たちはこうして拘束されているのですか?」 「あぁ、そうだった。アンタたち木ノ葉に来る気ない?別にここで死にたいならそうするけど…」 「な…」 「うちの里深刻な人手不足でね。あなた方の様な優秀な忍が欲しいんですよ」 「しかし俺は霧隠れの抜け忍だ…そんなことは不可能だ」 「あぁ…霧なら既に話はついてますからご心配なく」
オレはキレイに巻かれた巻物を投げ渡す。 その内容に再不斬は一瞬目を見開くが、直ぐに全てを悟ったかのように口元に笑みを浮かべた。
「そうか…正に準備万端ということか…しかし霧が木ノ葉に従属するとはな…」 「従属?んな訳ないじゃん。ちょっと里半壊させたら、里長が今回だけは許可するって快く了承してくれただけ」 「あの霧隠れを半壊…可笑しな野郎だ。いいだろう、木ノ葉に行こう。 しかし俺が従うのはボウズ、何者かは知らねぇが…お前だけだ」 「再不斬さんがそう仰られるなら…僕もキミに従います」 「良かった。拒否されたら殺さなきゃならないところだった…」 「フッ…お前も白に負けないくらい優しすぎるな…」 「全然優しくねぇ…」 「なんか言った朱寂?」 「いえ…何も言ってません」 「ふ〜ん…まいっか。んじゃ…朱寂あとはよろしく」 「わかったよ。再不斬さん、白さん俺についてきてください」
朱寂たちが去るのを見届けてナルトは呆然としているカカシの方へ歩く。
「カカシ先生…」 「ナルト…」
カカシはナルトに目線を合わせる様にしゃがみ、そっと抱き寄せる。
「一週間…どこに行ってたの?」 「やっぱバレてた…?」 「当たり前でしょ」 「ガトーのとことか、霧に交渉に行ったりしてたから…ごめんなさい」 「ねぇ…ナルトは…何?」 「ん…」 「っていうか、さっきの朱寂って例の四神だよね…」 「うん…」 「四神に命令できるのは、現総隊長の白狐か火影様くらいだよね…つまり、ナルトは…」 「そうだよ、オレは暗部。そしてオレの暗部名は…白狐」 「じゃぁ…ナルトがあの時の暗部?」 「そう」 「……なんか俺まだまだだね…強くなったつもりなのにな…まだナルトを守ることが出来ない」 「先生は十分強くなったと思う…それに先生は居てくれるだけでいい。先生の側はなんか落ち着く…」
言いながら、ナルトはゆっくりとカカシに凭れ掛かった。
「ナルト?!…寝てる…もうしょうがないな〜」
そう言いつつも、カカシの口元は嬉しそうに弧を描いていた。
二週間後
「ナルト兄ちゃん、絶対また来るよな」 「おう!」
ナルトの掛けた幻術によって、再不斬と白は死んだ事になり、 ガトーファミリーは街の人が撃退後、何者かに抹殺されたことになっていた。 波の国は再び活気が溢れ、人々に笑顔が戻った。 いつの間にかナルトと仲良くなったイナリは何か知っている様だが、ナルトが何も言わないから聞かないでおこう。 余談だが、完成したあの橋は「ナルト大橋」と名付けられたらしい…
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