外に出られる様になってから、凱亜はよくじいちゃんの元を訪れるようになった…勿論変化をしてだが。 凱亜が変化をしてもオレには全く負担はない。 何故ならオレの影分身を媒体としているとはいえ、その体は凱亜自身がチャクラを廻らせ維持しているからだ。 凱亜を外に出してもそのチャクラを通常通り使用できる事から、辛うじて自分の影分身だと認識できる程度で、 それは既にオレの分身とはまったく別の凱亜という一人の人間になりつつある。 その凱亜から離れてオレは旅に出る事になった。下忍として初の里外任務だ。 満月を挟むということもあり、心配性の凱亜はじいちゃんのところに置いてきた。 凱亜からこんなに長期間離れるのは初めてだ… オレは静かに波の国へ向けて歩みを進める。
壱 * 案山子 - KAKASHI -
老人が任務のランクを偽っている事は知っていた。 そして事前に青瀧に全て調べさせた結果、オレ自らが赴く事となった訳だ。 既に朱寂を波の国に潜入させている。
「あ〜疲れたってばよ〜」
オレはぐったりと座り込む。
「よ〜し、じゃ今日はここで野宿な」 「え〜今日もお風呂には入れないんですかぁ?サスケくんがいるのにいやぁ〜」 「さ〜く〜ら、そんな事言ったって無理なものはしょうがないでしょ?」 「は〜い…」
相変わらずサスケは無口で、サクラはうるさい。 寝転んでぼーっと空を見上げていると、カカシがオレの顔を覗き込む。
「ナ〜ルト、そんなに疲れちゃったの?」
遮られた空の代わりにカカシの顔を見つめる。 そんなオレの隣にカカシは腰を下ろし、しょうがないねぇ、とオレの頭を撫でる。 正直、カカシに頭を撫でられるのは嫌いじゃない。 最初こそ、オレに対して殺気を送る事はないが、じっと睨んでいたり、態度も冷たかったり… 他の里人と変わらない感じだったけど、今のカカシにそれはない。 そしてあの時…暗部に入隊したばかりのオレが出会った時の刺々しさも全く感じられない… まるでオレの様に本当の自分を隠しているみたいだと思った。 暫く撫でていた手を止め、カカシは立ち上がる。
「さてと、テント張らなきゃね。サスケ〜サクラ〜」 「何?」 「何だ?」 「はい、よろしく」 『え…』
渡されたテントを凝視する子供たちにもう一度言う。
「テントよろしくね、じゃ!」
そういってカカシはどこかへ行ってしまった。サクラは嘆息すると長女らしく指示を飛ばした。
「サスケく〜ん、ここ持ってぇ。あっ、サスケくんの手に触っちゃったvv」 「ああ…」 「くぉ〜らナルト、いつまで休んでんのよ。あんたはここ持つ」 「は〜い。サクラちゃん、サスケと全然態度違うってばぁ〜」 「当たり前でしょ!!」 「酷いってばよぉ」
テントを張り終え、食事も食べ終えたナルトたちは解散を言い渡された。 修行に向かうサスケを追ってサクラがいなくなり、カカシも解散を言い渡した途端、どこかへ行ってしまった。 否、近くの木の上で気配を消してオレを見張っている。 わざわざこんな所まで来て監視しなくても、と嘆息し、オレはその場を離れようとする。 カカシが張った結界があるし、カカシも実際は近くにいるのだから、タズナを一人にしても問題ないだろう。 するとそれを見計らった様にカカシが目の前に現れた。
「ど〜こ行くの?ナルト」 「トイレだってば。先生こそどこ行ってたんだってばよ?」 「ん〜ちょっとね」
オレは業とらしく漏れそう、と足をバタバタさせる。カカシはニコッと笑うと行っといで、と促した。
「ここらへんでいいかな。おい朱寂、いるんだろ?」
音もなく一人の暗部が目の前に降り立つ。
「ったく、態々来なくても言霊使えばいいだろ?」
言霊と言うのは風に乗せて特定の人物に言葉を運ぶ術だ。 鳥など動物だと目に付きすぎるし、書物という形態は誰かに読まれる可能性もあるということで、朱寂が開発した。
「心配だったんだよ。今夜は満月だろ?」 「大丈夫だよ。凱亜は置いて来たし、一応繋がってる分それなりに影響は受けるけど、前程じゃない」 「ったく、てめぇの大丈夫はいまいち信用できねぇんだよ」
そう言って顔を覗き込む朱寂に柔らかく微笑むと、安心したように朱寂も微笑んだ。
「で?」 「やっぱり例の桃地再不斬が係わってるのは間違いねぇ。他にも霧隠れの抜け忍を何人か見かけたぜ」 「そうか…ってことはカカシでもキツイな…朱寂、手伝ってくれるか?」
「じゃ、頼んだぞ」 「了解」
朱寂が闇に消えるのを見届け、結界を解く。 ナルトの気配は結界の穴から細々と垂れ流していたから問題ないだろう。 オレは余り遅くなっては怪しまれると思いテントへと急いだ。 が…ふと、目の端にチラッと入った藍に引かれて方向転換する。 進んだ先には小さな、けれどとても美しい深い藍色の湖があった。 オレは静かにその湖畔に腰を下ろす。
「やっぱり自然の中は気持ちいいな…」
ゆっくりと寝転がろうとして頭の上辺りに何か当たり、ゆっくり上を見上げる。 そこには目を大きく見開いた担当上忍が立っていた。
「カカシ先生?あんまり遅いから探しに来てくれたってば??」 「ナ…ルト…なのか?」 「何言ってるって…?!」
オレはカカシの後ろに光…さっきまで雲で隠れていた筈の満月を見た。 そして確認するように湖を覗き込み、ハッと息を呑む…水に映るのは紛れもなく紅い瞳。
「チッ…凱亜外に出してても眼は紅くなるのか…」
軽く舌打ちして振り向こうとしたオレは、自分の真後ろに移動したカカシの気配に警戒する。 と、突然すっと伸ばされたカカシの腕がオレを包む様に抱き込む。
「会いたかった…ずっと会いたかったんだ」 「あ…え…カカシせん……」 「ずっとお前を探してた。ずっと会いたくて」 「オレを探してた?」 「やっと会えた…」
耳元で囁かれる声にオレの心臓は張り裂けそうだった… なんとなく…オレが何故カカシを担当上忍に指名したのかが判った気がした…
「オレも会いたかったのかもしれない…」 「ナルト?!」 「あの日、あの森で先生に会った時からずっと忘れられなかった…」 「やっぱりナルトだったんだね…ねぇナルト、こっち…向いて?」
カカシに身を任せゆっくりと反転する。 向かい合ったオレの頬に触れる指先が僅かに震えていた。オレはそっとその手に自分の手を重ねる。
「ナルト…ちょっとだけ…」
オレはその言葉を理解したように頷き、静かに瞳を閉じる。 唇に触れるか触れないかのところで、カカシはゆっくりと顔を離す。 目を開けようとしたオレの頭をカカシは慌てて自分の肩に押し当てた。
「俺絶対顔赤い…だからもうちょっとこのままでいて」
オレはその言葉に従ってカカシの体を抱き返した。
「も〜先生、ナルト探すだけでどこまで行ってたんですか?」 「いや、ちょっとお婆さんが道に迷っててな「はい、うそ!」 「このウスラトンカチが…」 「さぁ、もう遅いよ〜みんな寝ようね」 「誰の所為ですか?ったく、ナルトあんたもよ!」 「ごめんってば〜」 「さぁ寝た寝た。見張りは俺がするから、ねっ」 『当たり前です(だ)』 「ひどいよ、お前たち〜〜」
木の根元でいじける振りをして自分に微笑むカカシに小さく微笑みを返しナルトは眠りについた。
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