「卒業おめでとう、ナルト」

「ありがと。シカマルもシノもおめでとう」

「…お前もな、ナルト…」

「今日はお祝いだ。三代目も来て下さるそうだぞ」

「イルカ先生!!先生も来るよな?」

「ああ。必ず行くとも」

 

 

 

 

 

あの後、オレはじいちゃんの火影としての権限に依って卒業させてもらう事になった。

イルカ先生とはあれ以来一層親しい仲になったと思う。

最初は戸惑っていたシカマルたちも今では自然に接することが出来るようになった。

今日は卒業式、そしてオレが暗部総隊長に就任する日。

 

 

 

 

 

* 四神 - SHISHIN -

 

 

 

 

 

 

「皆揃ったようじゃな。では始めるかの…白狐、青瀧前へ」

『ハッ』

「これより四神白狐を暗部総隊長に、青瀧を総隊長補佐に任命し、暗部全権を委ねる事とする!」

『謹んでお受け致します。三代目火影様に永遠の忠誠を…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、めんどくせぇ…なんだってこう儀式ってのは堅いと言うか…めんどくせぇ」

「まぁ、じいちゃんがちゃっちゃと終わらせてくれただけでもありがたいと思おうぜ」

「そうだな…本当なら暗部たちの前でスピーチだのなんだのさせられるところだったんだ…感謝せねばな」

「…とりあえず暗部は掌握したな…次は何を狙うつもりだナルト」

「ムカつく上層部でも乗っ取るか…?」

『悪くない』

「お主たち…余り恐ろしい事を言わんでくれ…心臓に悪い…」

「じいちゃん!!イルカ先生もおそ…っ?!封印の…書…」

 

三代目とイルカが持ってきたもの、それはミズキが奪おうとした<封印の書>であった。

 

「なんで…」

「ナルト、何故この前普通に戦わなかった?いくら九尾の力を抑えているとは言え、全く戦えない訳ではないだろう?」

「……」

「そういえばそうだな…以前は眼が紅くなる程度で、普通に戦う事には然程支障はなかった筈だ…」

「第一、初任務の時も満月の夜だったんだろ?」

「…術の制御が出来ないと言うのはわかるが、普通の戦闘にも影響があるのか?…」

『ナルト…』

「多分…九尾の封印が切れかけてる」

『?!』

「やはりな…」

「じいちゃん…オレ…」

「なんじゃ…」

「凱亜を外に出してやりたい…」

「封印を解除すると言うのか?!」

「凱亜はオレの友達だ。そしてオレが生きる意味…今回の事でも凱亜にとても辛い思いをさせた…

これ以上凱亜を苦しませたくないんだ!」

「里を襲わないと言う保証は…」

「…わからない…でも!!」

「実際本人?に聞いてみるしかねぇだろ」

「シカマル?」

「オレにいい考えがある。ナルト影分身一人作れ」

 

オレはシカマルの言葉に従い影分身を一人作った。

 

「オレの幼馴染に山中いのってのがいるんだが…こいつの家に代々伝わる憑依術がある。

それの応用みたいなもんだ…ただし九尾が協力してくれればの話だがな」

 

--凱亜

--あぁ、話は我にも聞こえていた。言う通りにしよう。

 

凱亜はシカマルが言った通りに印を組み、オレは凱亜に波長を同調させつつ同じ様に印を組む。

ボフン、という音と共にオレの影分身は銀色の長い髪を持ち、九つの尾が揺れる美しい男に変化した。

不思議そうに凱亜は己の手を何度も握り、現実の感触を確かめていた。

その凱亜をオレたちは驚いた表情で見つめる。

 

「ガイ…ア」

「ナルト」

 

凱亜はナルトに手を伸ばしいつも通りの優しい笑みを浮かべながらナルトの頭を愛しそうに撫で

すぐに背筋を正す。そしてシカマルたちへ向けて丁寧にお辞儀をした。

 

「凱亜と申します」

 

シカマルは提案はしたものの、まさか成功するとは思っていなかった様で唖然とした表情で凱亜を見つめている。

じいちゃんたちも似たり寄ったりだ。

逸早く我に返ったイルカ先生が丁寧にお辞儀を返す。

 

「海野イルカと申します。いつもナルトがお世話に…」

 

今度は凱亜とナルトが驚く番だった。凱亜は慎重に言葉を紡ぐ…

 

「主は我に親を殺されたと聞いた…なのに何故…」

「勿論憎いですよ…しかしそれは過去の貴方だ。少なくとも今の貴方は俺の憎む九尾ではない…と思う」

「…すまない…どんな理由があったとしても許しを請うても許してはもらえないと思うが…」

「だからもういいんです。今の貴方は大切なナルトの事を守ってくれた命の恩人なのだから」

「そうじゃ…儂はあの夜の礼をお主に言わねばならぬ…ナルトを助けてくれてありがとう…

儂はもう少しで四代目との約束を違えるところじゃった…お主には感謝しきれない恩がある」

「三代目火影か…ナルトは我にとってすでになくてはならない程大切なもの…気持ちはわかる…

我こそ主には感謝せねばなるまい…主の大事な里の者たちを殺した事、申し訳なく…」

「だぁぁぁ、暗いっ!!ったく、なんで大人って奴はこうも堅ぇんだ!」

「シカマル…お前と言う奴は。少しは場の雰囲気を考えろ」

「そう言うネジだって、俺が言わなきゃもうすぐ言い出しそうな感じだったじゃねぇかよ」

「フッ…シカマル、お前も成長したものだな…」

「どういう意味だよ!シノ!!」

「あははははは」

 

突然笑い始めた凱亜に全員が瞠目する。可笑しそうに腹を抱えながら笑う凱亜は本当に楽しそうだった。

 

「お前たちは本当に面白い。人間にもこの様な奴が居るとはな…ナルトの中でずっと見ていた。

主たちのお陰でナルトは何度も何度も救われた。ナルトと同じくらい我も主たちに感謝している」

「凱亜!恥ずかしい事言うんじゃねぇよ!!」

 

ナルトが凱亜を睨みつける。その表情を愛しく思い、凱亜はそっとナルトを抱き寄せた。

 

「やっと主をこうやって抱き締めてやる事が出来る…主が苦しい時、寂しい時にしてやれなかった事が

我は一番辛かった」

「凱亜…」

 

嬉しそうにナルトは凱亜に頬を摺り寄せた。

 

「めんどくせぇが、こんな奴が里を襲うと思うか?」

「そうじゃな…九尾を、いや凱亜の封印を解除しよう」

「いや、それは必要ない」

 

凱亜は優しくナルトを見つめていた瞳を三代目に向け、はっきりと言った。

 

「我はナルトの中に留まり過ぎた…既に時は遅い…我を外に出せばナルトは死ぬ」

『?!』

「わかっていたのだろう?ナルト…」

「ごめん…」

「ナルト!!何故お前はいつも…いつも一人でそうやって抱え込む?!」

「なんで俺らに相談しねぇんだ?!」

「…俺たちでは相談するにも値しないと言う事か?」

『ナルト…』

「オレ…今回の事でいろいろ考えて…日に日に弱まっていく封印の事や強大な力を一生懸命制御しようと

してくれる凱亜のことや、制御し切れない程膨れ上がる力のことや…そしてこのままだと里がどうなるのか考えた。

そしてオレの外に出れば凱亜は力を制御できる…そうすればじいちゃんの大事な里は守られるっていう結論に達した」

「ナルト…儂の、儂の為にお前は…」

「なぁ凱亜…お前今の姿で力の制御は出来ねぇのか?」

「……っ?!出来る!出来るぞナルト」

「え…じゃぁ」

「つまり満月の時は我を影分身に転移させてくれれば、もうあの時の様な事態は回避できるということだ。

それにまたこうして主に触れ、主を我自身の手で守ってやることも出来る!」

「凱亜、ありがとう…シカマルも…ホントにありがとう」

「我からも礼を言う。ありがとう」

「…なんか照れるじゃねぇか…」

『さすが四神の頭脳、朱寂だな』

「なんだよ!!みんなして…だぁ、こっち見るんじゃねぇよ!」

「…シカマル、顔真っ赤だぞ」

「フッ…猿のようだな」

「シノ!ネジ!!てめぇら覚えてろよ!」

 

卒業を祝う宴は大いに盛り上がった。

さっきまでの苦しみなど全て吹き飛んでしまった様に皆の笑いは明るく、清清しいものだった。

ナルトはとても美しい微笑みを浮かべ、その光景を見つめる。

 

--オレの大事な仲間…結局いつも心配掛けてばかりのじいちゃんに凱亜、そしてイルカ先生…

--もっと強くならないとな…皆の為に。

 

ナルトは新たな決意を胸に皆を見つめる。

そして楽しい宴はまだ始まったばかりだ。