「ナルトォ!!」

 

 

 

ズバババ

 

 

 

禁忌の森に到着した俺が見たのはたくさんの忍たちに囲まれる血まみれのナルト。

紅玉の様に紅い瞳に強い光を宿し好戦的にミズキを見上げる瞳に俺は息を呑んだ。

次の瞬間、忍たちがナルトに向けて手裏剣を放った。

俺はてっきり避けると思ったが、ナルトは静かに目を伏せ…その場を動こうとしなかった。

俺は無意識の内にナルトのところに移動し、ナルトを自分の腕の中に押し込んだ。

ナルトは儚くも強い光を宿したその瞳を見開き驚いた様に俺を凝視する。

背中に無数の手裏剣が突き刺さる痛み…それすらも忘れてしまいそうな程美しい瞳が俺を射る。

 

「イルカ…せんせ…」

 

 

 

 

 

* 海豚2 - IRUKA2 -

 

 

 

 

 

「遅くなってすまない、ナルト。大丈夫か?」

「なんで笑ってる…てば…イルカ先生…いたくな…いの?」

 

ナルトの瞳から零れ落ちる大粒の涙をそっと拭い、俺は優しくナルトを抱き寄せた。

 

「先生は大丈夫だ。俺が来たからにはもう大丈夫だから…」

「イルカせんせ…」

「ふん、中忍風情が来たって何も状況は変わらねぇよ」

 

声がした方に俺は強い怒りを宿した目を向ける。

 

「ミズキ…よくもナルトを!!」

「イルカ先生、アンタに用はない。そこを退け」

「退く訳ないだろう?」

「なんだと?…ならばお前も狐諸共死ね!!」

 

が、ミズキが放った巨大な手裏剣はイルカたちに当たる事はなかった。

 

「イルカ…せんせ?!」

「ナルト、お前は俺が守る」

 

イルカは素早く印を結ぶ。

煙の中から現れたのは紛れもなくこの里の暗部。

ナルトはその暗部に見覚えがあった…一度だけ任務で一緒になったことがある…

 

--黄榴…イルカ先生が黄榴?!

--人好きのするその優しい声、穏やかな雰囲気…何故今まで気付かなかった?

 

「暗部だと…そんなまさか?!これは里の上層部に依頼された正式任務だぞ」

「そのご意見番なら既にもうこの世に存在しない」

「なんだとっ?!」

「覚悟するんだなミズキ…お前たちがアカデミーで何をやっていたかも全て調べが付いている」

「クッ…お前たち、アイツを殺れ!!」

 

三十人の忍が再びイルカたちを取り囲む。

しかし、その力の差は明らかだった…三十人の忍は一瞬にして肉塊に変わった。

そこに残るのは金色の子供と鮮血の滴る忍刀を忌々しげに見つめる一人の暗部だけ…

 

「うあ………ヒィッ!!」

 

逃げようとするミズキの後ろに素早く移動し、首元に血塗れの刀を突きつける。

 

「お前は火影様のところに連れて行くように言われている。大人しく裁きを受けるんだな」

「クソッ…もう少しで、もう少しで俺の思い通りになったのに…」

 

観念したミズキをチャクラを通した縄で縛り、<封印の書>を一緒に括りつけると、

イルカは素早く印を組む。

 

「空間転移!」

 

ミズキと<封印の書>が火影の元へ送られたのを確認し、イルカはその場に崩れ落ちた。

 

「イルカ先生!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと俺は見知らぬ場所のベッドに寝かされていた。

近付く気配に一瞬警戒するが、すぐに誰かわかり警戒を解く。

 

「気付いたってば?」

「ああ…」

「ありがと…てば、イルカ先生」

「…もう偽りの姿は止めないか?お互い」

「イルカせんせ…オレ…オレは…」

 

俺はナルトの手を引き抱き寄せる。

 

「もういいんだ。本当のお前を見せてくれ、ナルト」

「先生はオレの事を知ってるの?」

「俺が言い渡された任務は二つ。一つはアカデミーに於いて旧家、名家の子供を守ること。

もう一つは、ナルト…お前を守ることだ。お前の事は全て火影様から聞いている」

「…そっか…先生は任務で…オレを守ってくれたんだね…」

「違うっ!そういう意味じゃないっっ!!…っつ」

 

悲しそうな表情をしたナルトに弁解をする為に起き上がろうとして身体中に走った痛みによってベッドに引き戻される。

 

「っ・・・イルカ先生!」

「ナルト…俺はお前を本当の弟の様に思っている。決して任務だから守ったわけじゃない。

俺はお前だから、お前を守りたいと心から思ったから守ったんだ!それだけは信じて欲しい…」

「わかったよ。わかったから…だからもう眠って?」

 

そう言ってナルトは赤い色をした丸薬を取り出し、俺に飲む様に渡した。

俺は大人しくその丸薬を飲み込む…と身体の傷が一気に治り始めた。

九尾の力…ナルトの血か…

回復と共に襲う眠気に俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日が昇り始めた頃、青瀧たちは屋敷の前で立ち止まっていた…

 

「ナルトの他に気配が一つ…」

「誰だ…」

「…」

 

気配を消して屋敷に入り、知らない気配のある場所へ向かう。

そこでベッドに横たわる身体中に包帯を巻かれた人物に全員が目を見開く。

 

『イルカ…先生』

「帰ったか…」

「ナルト、これはどういうことだ」

「……」

「ナルト!」

「ひとまず二階へ行こう。先生が起きる」

 

青瀧たちは静かに二階へ上がった。

ナルトの話を聞き、青瀧はナルトを凝視し、朱寂は頭に手を当て目を閉じ、

源武はただじっと何も映らない窓を眺めていた。

 

「くそっ…」

「俺たちが居なかったばかりに…」

「…またお前を守ることが出来なかった…」

「お前ら…」

『ナルト…すまない…』

「なんでお前らが謝るんだよ…オレは大丈夫だから」

 

そう言ってナルトはいつもの様に微笑む。その笑顔に幾分か暗い気持ちも晴れる。

それだけナルトの笑顔には皆を幸せにする力があるのだ。

落ち着きを取り戻したところで朱寂が口を開く。

 

「んで、イルカ先生は一体何だ?三十人は居た敵を一瞬で倒すなんて普通中忍には不可能だろ?」

「うん…」

「俺は暗部だ」

 

突然後ろから会話に混ざった声に全員が振り向く…が、その表情に驚きはない。

 

「暗部ですか…」

「俺の暗部名は…黄榴と言えばわかるかな?」

「黄榴だと?!あの火影直属の特別暗部…」

「そうだ」

「…ならば何故アカデミーの教師などやっている?」

「俺はナルトのサポートをする為に送り込まれたんだよ、シノ」

『?!』

「何故俺だとわかった…」

「俺を誰だと思ってるんだい?俺は子供たちのチャクラの質など全て把握している」

「つーことは、俺たちもわかってるってことか…」

「ああ、シカマル…にしてもまさかお前たちが暗部とはな…」

「それはこっちの台詞だ」

 

そう言って青瀧は変化を解いた。続いて朱寂、源武も変化を解く。

 

「俺がアカデミー時代いつもナルトとツーマンセルを組ませていたのはアンタか?」

「そうだ。護衛対象が近くに居れば居る程、護衛は簡単になるからな」

「じゃぁ、あの時…ネジが襲われた時も全てをわかっていてナルトに任せたのか?!

何故自分で殺らなかった?」

「あれには事情があってな…どうしても俺が出張る訳にはいかなかったんだ…あの時はすまなかったと思っている」

「お前ら…イルカ先生はまだ病み上がりなんだから、あんま質問攻めすんじゃねぇよ」

「病み上がりはちょっと違う気がするぞ、ナルト…」

「そういうところは変わらないんだな…」

 

呆れたようにシカマルは溜息を吐く。

そうだな、と笑うイルカにつられて全員が笑う。

和やかな朝…鮮やかなナルトの笑顔に、昨夜の事などなかったかの様にそこに居た誰もが微笑んだ。