「木ノ葉の暗部…だと…」 「せ〜かぃ」 「相手が悪かったな」
参 * 紫乃2 - SHINO2 -
俺には見えない速度で印を組んだシカマルたちは真黒な衣装に包まれ、その腰には面が括られていた。 シカマルたちの耳にはさっき結界石とシカマルが呼んだ珠にそっくりな珠の付いた耳飾が揺れていた。 ネジが髪の中から現れた銀色の縄で一瞬にして敵を捕獲すると同時に、シカマルは紅に染まった鉄扇を取り出す。 その鉄扇はシカマルの手の中で数枚の鉄羽に分裂し、その内の一枚が捕まえた敵の顔の真横を通り過ぎた。 全てが一瞬の内に過ぎていく事に戸惑いながらも、俺は事の先を見つめ続ける。
「次は外さねぇぞ」 「さっさと吐け…誰に頼まれた?」
依頼主の事は誰にも言う訳にはいかない、と男は舌を噛み切ろうとした。 ネジは難なくそれを阻止し、大きな溜息を吐く。 そして素早く印を組むと、忍の目が一瞬にして虚ろになり、ゆっくりと質問に答え始めた。 そして判ったこと…依頼主は木ノ葉のご意見番だった。 シカマルは腹立たしげに鉄羽を男に向けて放つと、忌々しげに目を逸らした。 手早く処理を終えたネジも面持ちは暗かった。
「シカマル、行くぞ」 「あぁ」 「待て」
突然聞こえた声に振り返るといつから居たのかナルトが俺の隣に立っていた。 手には壊された珠と同じ丸く透明な珠を持って。 その透明な珠をさっき霧隠れの忍が取出した場所に置き、ナルトが手をかざすとその珠は 吸い込まれるように地中に飲み込まれた。 そして屋敷の周囲は何もなかったかの様に元に戻り、虫たちも普通に花の周りを飛び回っていた。 シカマルとネジは既に変化を解き静かにナルトを見る。
「何故止める」 「こんなくだらねぇことにいちいち構ってられるか。放っておけ」 「しかし…」 「オレがいいって言ってんだからいいんだよ。ったく、てめぇらは…突っ走りやがって」 「納得いかねぇよ…ナルトは…ナルトが九尾を封印してくれてるお陰でこの里は助かったんじゃねぇかよ… それなのに殺そうとするなんて、間違ってるじゃねぇか!!」 「ありがとう、シカマル…オレはその言葉だけで嬉しい」
シカマルは照れたようにフンッと顔を背けた。
「ネジもありがとうな。…それよりも…」
ナルトと同時にシカマルとネジが俺を困ったように見た。
「どうする?」 「めんどくせぇ…」 「元はと言えばお前の所為だろうが」 「しょうがねぇだろ、気付かなかったんだから!」 「まぁ落ち着け、お前ら。なぁシノ、お前には二つの選択肢がある。死か…それとも忘れるか、お前はどちらを選ぶ」 「…それはお前にとって良い事なのか?」 「…どういう意味だ…」 「ならば問う。ナルト、なぜお前はそんなに悲痛な顔をしている」 「クッ…」 「俺もシカマルやネジのように、お前と共にある事はできないのか?お前を守る事はできないのか?」 「…だけどオレは…」 「九尾だからというのなら、それは間違っている。お前はこの里を守ったのだろう?何故それを理由にする? それに…俺は全てを知った上でお前と共に居たいと願っているということをお前はわかっているのか?」 「シノ…」 「ちぇ…また敵が増えるのかよ…」 「フッ…俺もお前が仲間になる時、同じように思ったさ」 「ケッ…ま、ナルトが結界を開けてシノを入れた時からこうなる予感はしたがな…」 「そうだな…」
シカマルとネジは諦めたように呟いた。 ナルトはその様子を眺めていた視線を俺に移し、ニコリと嬉しそうに微笑んだ。 そして思い出したように口を開く。
「そうだ、シノ」 「なんだ?」 「お前、一つだけ間違えてるぞ」 「??」 「オレはこいつらに守ってもらってるんじゃなくて、一緒に戦ってるんだ」 「戦ってる…だと?ということはお前も暗部なのか…?」 「そういうこと。アカデミーのあれは所詮里の奴らの目を誤魔化す為の演技だからな」 「実際ナルトは俺たちより強い…」 「そもそもナルトは俺らの師匠だからな…」 「フ…そうか・・・ならば俺も早くお前たちに追いつかなくてはな…」 「よしっ!じゃぁ俺が鍛えてやるぜ!!」 「む…ナルトが鍛えてくれるのではないのか」 『最初からナルトに教えてもらおうなど(なんざ)百年早い!』
フッ、とネジが笑い出したのを切欠にシカマルもシノも笑った。 家中に響く楽しい笑いにナルトは顔を綻ばせる。 こうしてナルトに新たな仲間が出来た。
「よかったのう、ナルト」
一部始終を見ていた三代目は嬉しそうに微笑むと、直ぐに険しい面持ちで執務室を後にした。
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