最近妙に気になる奴が居る。

うずまきナルト--俺と同じイケてない派でアカデミー一の落ち零れ。

だけど俺は見てしまったんだ…

 

 

 

 

* 鹿丸 - SHIKAMARU -

 

 

 

 

一年前

俺にとって授業は詰まらない物でしかない。

自慢じゃないが俺のIQは200。

既に山の様な書物の中から得た知識にとってアカデミーで学ぶ事などゴミの様な物だ。

俺はいつも通り欠伸をしつつ外の様子を見ていた。

ふと無意識に目を向けた先では霧隱れの忍に先生と生徒たちが取り囲まれていた。

状況から見て忍たちの狙いは日向ネジなのだろう。

余りの尋常でない状況にこめかみから汗が流れ落ちる。

これ程の騒ぎというのにどういうわけか平然と続けられる授業、

そして何も気付かないクラスメートに俺は不思議に思い周囲を見回した。

そっと窓に触れるとパチッと何かに弾かれた。

 

「結界…か?」

 

そうこうしている内に次々と敵が倒されていく。

全員倒し終え、姿を現したのは銀色の暗部だった。

その暗部が何かの印を組んだ途端に日向ネジを残して全員が倒れこんだ。

そしてそれと同時に<うずまきナルト>も消えた…まるで分身が消える様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一年…俺はナルトと同じクラスになった。

そして幼馴染のチョウジと犬使いのキバを含めよく遊ぶようになった。

ナルトは呆れる程バカで、ドジで、真っ直ぐで。

あの日見たのは夢だったのかもしれない…といつしか思うようになり、あの日の事も忘れかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの夜、俺はオヤジの使いで酒を買いに行った。

その帰り、なんとなしに見た林の向こうに何か光った気がした。

いつもならめんどくさいとほっとく俺が珍しくその光の方へ歩いて行くと大きな湖が広がっていた。

 

「こんな所があったのか…」

「あれぇ?シカマルじゃん。何してるんだってば?」

 

その声は俺の上から降ってきた。

さっきまでなかった筈のそいつの気配が急に感じられるようになった。

俺だって一応名家の後継だ。

大抵の気配を読むことなど簡単にできる。

ましてや忍でもないアカデミー生の気配など読む必要もない筈だった。

その俺が気付かなかった…ただの落ち零れであるこいつの気配に…だ。

 

「ありえねぇ…」

「ん?どうかしたってば、シカマル?」

 

--きっと疲れていて意識していなかった所為だな…

 

などと勝手に理由をつけて俺は木の上にいる人物を見上げる。

 

「いや、何でもねぇよ。ところでお前こそそんなところで何してやがる」

「読書」

「はぁ?!お前が読書?」

「悪いかよ?俺だって読書くらいするってば!」

「んで、何読んでんだよ」

 

ん、と差し出された本を見て俺は我慢しきれず噴出す。

 

「『正しい忍のススメ』って…これ初歩中の初歩じゃねぇかよ…あ〜はっはっはっは…死ぬ…」

「何事も初歩が大事なんだってばよ」

「そりゃそうだけど・・・こんなもん読んだって役に立たねぇよ、こんなふる…っ?!」

 

その瞬間、一瞬だが目の前の本がグニャリと歪んだ気がした。

本を開いてみると、中身は案の定全て白紙だった。

俺はもしやと思い、記憶の糸を繋ぎ合わせつつゆっくり印を組む。

 

「解」

 

そこに現れたのは『封印術ニ関係スル実験一覧』と書かれた分厚い資料だった。

 

「何だよこれ…」

「ククッ…まさか解除されるとはな…ただのアカデミー生だと思って甘く見てた」

 

気が付くと目の前に居た筈のナルトは俺を通り越して水辺に居た。

細められた深紅の瞳、明らかに異なった声色、そして今にも消えてしまいそうな儚く弱い気配。

 

「お前…ナルト……なの…か?」

「オレは器、十年前里を襲った九尾の妖狐の器だ。それ以外の何者でもない」

 

普段のナルトでは考えられない程弱弱しい雰囲気に、俺は無意識に手を伸ばす。

だがそれは、突然降って来た声に遮られ、俺は手を引っ込めた。

 

「それは初耳だな…」

「?!青瀧…」

「なっ…暗部?!」

「お前が満月の夜には任務を入れない理由はそれか…」

「九尾の力は強大だからな。押さえ込むので精一杯なんだ」

「だからこうして自然の中で息を殺して静かにしているのか……何故俺に言わなかった!」

「悪ぃ…お前は初めて出来た友達だったから・・・・・・・・・・・・・・・・怖かったんだ…

お前も里の奴等の様になってしまったら、と思うと怖くて…」

「おい…話の邪魔して悪ぃが…んじゃ何か?俺やチョウジやキバは友達じゃなかったってのかよ?!」

「ちがっ…」

「だってそうだろ?俺たちはお前の事何も知らずにずっと友達だと思って来たのに、バカみてぇじゃねぇか」

「…」

「お前にとって俺たちはその程度だったのかよ?!少なくとも俺はそんなことじゃ離れて行かねぇよ。

頼まれたって離れてやるもんか…」

「シカマル…」

「もっと俺たちの事信用してくれてもいいんじゃねぇのか?もっと弱い部分見せてくれたっていいじゃねぇか!」

「…ごめん…ごめん、シカマル」

「今日はそのくらいにしておいてやれ。ナルト帰るぞ」

「青瀧…」

 

俺は立ち去ろうとするナルトたちを引き止める様に尋ねる。

俺が一番心配な事…

 

「なぁ、最後に教えてくれよ。俺たち友達だよな?」

「あぁ。友達だ」

「そっか、それなら俺はもう何も言わねぇ。また明日な」

「ありがと、シカマル」

「どういたしまして」

 

ナルトはフッと柔らかい微笑を浮かべると青瀧と共に一瞬にして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々の枝を飛び移りながら青瀧−ネジは心配そうにナルトを見遣った。

その視線にナルトは大丈夫だ、と満面の笑みで応える。

さっきのナルトが演技だったのではないかと疑う程の美しい笑顔にネジは見惚れていた。

 

「記憶を消さなくて良かったのか、ナルト」

「いい。それにあいつ俺の幻術解きやがった」

「ほぅ…そういえば以前お前と同期にIQ200の子供が居ると聞いたことがあるな」

「IQ200か…使えそうだな」

「あぁ。奴ならお前の事を理解してくれるだろう」

「うん」

「いい友を持ったな」

「あぁ…俺には勿体無いくらいだよ。シカマルもお前も…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人取り残された俺は足早に帰宅し、酒を父ちゃんに渡すとすぐに部屋に篭った。

遅い、と怒られたが、今はそんなことに構ってはいられなかった。

俺は残された情報で推理する。

 

--青瀧と呼ばれた暗部は確かに<任務>と言った。

暗部と一緒に任務をするって事は…ナルトは上忍か、それ以上の力があるという事。

そしてその暗部と<友達>だとナルトは言った。

素性を知らずに友達など軽がると言えない筈。

素性を教えてはならない暗部の素性を知っている…即ちナルトは暗部。

 

「マジかよ…ってぇことはあの時の暗部は、つまりナルトって事だ…」

 

シカマルは口に手を当て呆然とする。

 

--そういやぁ…ナルトの奴、自分は九尾の器だとか言ってたな…

それはつまり、四代目が倒したというのは里が作り上げた大嘘で、ナルトの中に封印されてるって事だろう…

これで何故ナルトが里から酷い仕打ちを受けるのかが理解できた。

 

「許せねぇ…」

 

全てのピースは繋がった。

シカマルの思う事はただ一つ。

 

--これからは里の奴らや敵から俺がナルトを守る!

 

その為には力が必要だ。

だから…

 

 

 

だから・・・・・・

 

 

 

「俺に修行をつけて下さい!!」

 

ナルトは嬉しそうに、そして満足そうに微笑んだ。