監視を始めて気付いた事--ナルトは時々あの時の様にチャクラが一瞬乱れる事があるということ。

更にその度に通り抜ける一陣の風。

ある日俺はそのタイミングに合わせ、白眼を発動させた。

チャクラが一瞬乱れる瞬間ナルトのチャクラが二重になり、更にその一つが消え一つが残った。

チャクラが二重になる…それはつまり…

 

「影分身…だ…と……」

「正解」

 

はっきりと聞こえた声に振り向くが、そこにはもう誰も居なかった。

 

 

 

 

* 螺旋2 - NEJI2 -

 

 

 

 

 

俺は授業が終わるとすぐにナルトの家へ向かった。

というのも、話を聞こうと追っていたナルトの影分身がいつの間にか消えてしまったからだ。

ナルトの家は帰り道なのでよく知っていた。

下から見上げるが、家には誰も居ない様だ。

俺は玄関前に立ち、注意深く白眼を発動させる。

明らかにこちらに向かって進んでくる人物。

俺が居るのがわかっているかの様に…いや、わかっているのだろう…

扉の前に立つ俺に一瞥もせず扉を開けると、くるっと反転して中に入ってしまった。

 

--これは入れという事だろうか?

 

戸惑い悩んでいると中から入れ、と声が聞こえたので遠慮なくお邪魔する事にした。

ナルトは静かに部屋の中に居た。

まるでひっそりと隠れるように。

 

「それが本当のお前か」

「…オレはオレだ。本当も嘘もない」

「そうか…ククッ

 

俺に背を向けて何かをしているナルトの顔はこちらからは伺えないが、

ナルトから発せられた声はいつもの五月蝿い声とは違う1トーン低い落ち着いた声だった。

俺は何だか不思議な気持ちになった。

嫌いだった筈のナルトが本当は違っていた事が何だか嬉しかった。

 

「何を笑っている」

 

小さく笑った俺を振り返り、ナルトは訝しげな瞳を向ける。

その瞳の色に俺はドキリとする。

普段を空の様な明るい青とするならば、その瞳は深い闇を纏った氷の様な藍。

薄っすらと開かれた瞳には何も映されていないかの様な虚無の色…あの時のナルトの瞳。

 

「いや…なんでもない」

「変な奴…」

 

そういってナルトはまた背を向けてしまう。

俺は部屋を見回し、部屋の隅にあった椅子に腰掛け、初めて部屋の中を観察する。

部屋の中はこざっぱりとしていて、想像していた様子と全然違う。

キレイに拭かれた床や家具、ゴミ一つ落ちていない。

丁寧に収納・管理された武器、几帳面に整理された本棚。

ふとどんな本が置いてあるのか気になり、そのうちの一冊に手を伸ばす。

一瞬こちらに目を向けるが、何も言わないという事は肯定ととってもいいだろう。

表紙を見て俺は驚いた…表紙に書かれた<禁>という赤い文字…

 

--一体ナルトは何者なんだろう・・・

 

手に取った巻物を元の位置に戻し、再びナルトを観察する。

明らかに普段のナルトとは違うチャクラの質…どこか禍々しさすら感じる。

自ら冷気を纏っているかの様に人を寄せ付けない雰囲気。

そして…今にも消えてしまいそうな気配。

俺の知るナルトはまるで自分の存在感を周囲にアピールするかのような存在自体が五月蝿い人間だった。

だがこのナルトは自分の存在に気付かれまいとしている感じさえある…とても…とても儚い。

何も言わずただ見つめている俺に業を煮やしたのか、ナルトは俺の方に向き直った。

そしてその形のよい唇を静かに開き尋ねた…何も聞かないのか、と。

確かに聞きたいことは山ほどある。

だがそれよりも…俺の目的はただ一つ。

 

「俺は強くなりたい」

 

ふっとナルトが笑った気がした。

 

「アンタ、それ言う為だけに此処に来たのか?」

「いや。本当は色々聞こうと思ってやってきたが、お前を見ていたら何だかどうでもよくなった」

「やっぱりアンタ変な奴だよ…日向ネジ」

「お前に言われたくないな、うずまきナルト」

「そりゃそうだ」

 

今度こそナルトは本当にはっきりと笑った。

どこか儚い、でもとても嬉しそうな顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺たちは様々な事を語り合った。

ナルトの事も勿論、俺の事も。

そして沢山の事を知った…ナルトが暗部である事、そして俺の父上が何故死んだのか…

 

「ところでどうしてあの時ナルトが居たという事まで記憶操作したんだ?」

「あの日は連日の任務で寝てなくて死ぬほど眠くてな…」

「だから最初から休みだという事にして、家に帰って寝た訳か…お前という奴は」

「それにオレ一度あの授業受けてるし、つまんねぇじゃん」

「確かにな…お前の実力ならつまらんだろうよ。だが一体何故そんなお前がアカデミーなどに通っている?」

「あの時みたいな事からアンタみたいな旧家のガキを守る為」

「そうか…」

「だから早く強くなってくれよ、ネジ」

「お前が強くしてくれるんじゃないのか?ナルト」

「アンタ、何か普段と性格違くないか?」

「…俺は俺だ。本当も嘘もない」

 

俺たちは顔を見合わせ思いっきり笑った。

 

--こんなに笑ったのは何年ぶりだろう…

 

俺は今まで周りの奴らを馬鹿にし、慣れ親しもうと思わなかった為、誰も寄せ付けない様にしていた。

こんな風に笑いあう友達と呼べる者など当然居なかった。

ナルトはそんな俺の初めての友達になった。

相変わらず俺とナルトは毎度毎度ツーマンセルを組まされる。

その方が守り易くていい、とナルトは言うが、何故こうも旨く俺と組めるのかは自分でもわからないそうだ。

まぁ、俺としてはもうナルトとしか組みたくはないので、毎度組分けをしている人間にはとても感謝している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年後

俺はナルトとの修行のお陰で強くなった。

そしてナルトの薦めで暗部にも入隊した。

俺の名は青瀧。

ナルトが付けてくれた名だ。

ナルトの瞳と同じ色の藍い珠を耳に付け、俺は今日もナルトと共に闇に消える。