うずまきナルト--俺はこいつが嫌いだった。 だったというのは、それはあくまで過去の話だからだ。
壱 * 螺旋 - NEJI -
アカデミー入学以来、俺は何故かこいつに縁があった。 何かにつけツーマンセルを組まされ、スリーマンセルもほぼ必ずといってメンバーにナルトが含まれていた。 先生は実力の均衡を保つ為と言うが、それでも俺は納得がいかなかった。 ナルトはアカデミー一の落ち零れで、既に一度留年しているが、年齢は俺の一つ下。 まぁ、入学年齢が決まっている訳でもないので年齢は大した問題ではないが、 以前同じ内容の授業を受けているはずなのに、何故こうもできないのだ。 まぁ、できないからこその留年だろうが、こんなものは話をきちんと聞いてさえいれば誰にでもできる事だ。 やる気がないなら忍になどならなければいい。 やる気がないなら何故アカデミーに通っている…俺には全く持って理解不能だった。 だが、最も腹が立つのはそれじゃない。 俺があいつを嫌いな理由…それは抵抗しない事だ。 こいつは里の奴らに何を言われようと、どんな酷い仕打ちを受けようとも、 ただ笑い、抵抗も反抗も一切しない。 何故笑っていられる…何故奴らに抵抗しない。 …何故奴らを見返してやろうと思わない? そうしないから奴らはどんどん付け上がっていく…あの宗家の様に!! 俺は宗家を見返す為に、そして父の敵を討つ為にこんなにも努力しているというのに、何故奴はそうしない? うずまきナルト…俺には理解できない事だらけだった。 そしてそれは自然と嫌悪の念へと変わっていった。
あの日も、いつものようにナルトとツーマンセルを組まされての演習だった。 ナルトは相変わらず大声で叫び、笑い、そして先生に叱られている。 何故こうも問題ばかり起こし、人に迷惑を掛けているにも拘らず、こいつは平然と生きられるのだろう。 俺は嘲りの瞳で奴を見つめていた。 するとどこかで悲鳴が上がった。
「きゃぁあ!!」 「どうした?!」
驚いた先生たちが駆け寄る。 そこには数人の忍…額当てから言ってこの里の忍ではないらしい。 先生たちが慌てて子供たちを取り囲み結界を張る。
「里から援軍が来るまで持ち応えるんだ!」 「そうだな。お前たちこの結界から出るんじゃないぞ!」
どうやら先生たち中忍では敵わない相手らしい。 忍たちは何かを探す様に俺たち生徒を眺めている。 そしてそのうちの一人が言った。
「日向のガキはどいつだ?」
子供たちの恐怖に震えた瞳が俺の方を見る。 その視線で判断した忍が苦もなく俺を結界から引きずり出す。
「他は関係ない。始末しろ」 『はっ』
隊長らしき男の命令でその他の忍が結界の周りを囲んだ。 俺は無意識にナルトを探した…何故かはわからない、ただあの金色がどんな顔をしているのか見たかったのかもしれない。 だがそこには期待していた恐怖も怯えも、何の色も存在していなかった。 そこにあったのは…虚無の瞳。 いつも五月蝿い程主張するあの青い瞳には何一つ映ってはいなかった。 そして次の瞬間、ナルトの周りの空気が歪み、目の前を一陣の風が通り過ぎた。
「ぐぇ…」 「がはっ…」 「何だ、何が起こっている?!」
隊長らしき男にも何がなんだか判らないという顔をしている。 それくらい速いスピードで子供たちを取り巻いた敵が倒れていっているのだ。 先生たちも何が起こったのかわからないみたいだが、敵が倒れる事で少し安堵の色が浮かんでいる。 落ち着きを取り戻した俺は事の真相を見ようと日向に代々伝わる血継限界である白眼を発動する。 そこには驚くべき光景が広がっていた。 チャクラを通した糸状のものが先生たちの張った結界に張り付くように巡らされ、 それが意思を持っているかの様に敵を襲っていたのだ。 そして全ての人間が倒れたと同時に、それを操っていたらしい男が現れた。 漆黒のマントを羽織り、白い狐の面をした銀髪の暗部。
「…白狐…」
誰かがそう呟いた途端、その暗部−白狐は徐に素早く印を組むとその場に居た俺以外の者全てが崩れ落ちた。 俺はどうすることもできず、ただ白狐をきっと睨んだ。
「こいつらに何をした」 「ふぅん…白眼には効かないみたいだな、この術。まだ改良の余地有りか」 「質問に答えろ!」
俺の言葉に応える事なく、白狐は目の前に散乱した死体を一瞬で燃やし終えると、姿を消した。 それと同時に先生や生徒たちが目を覚ました。 驚くべきことに彼らにはさっき起こった事件の記憶が全くなかった。 何事もなかった様に再開される授業に戸惑っていると、俺は不思議な事に気付いた。
--ナルトが…居ない…?
「イルカ先生、ナルトが居ないんですが…」 「ん??ナルトなら今日は休みだぞ?今まで気付かなかったのか〜?」
ネジでも抜けてる事あるんだなぁ…、とイルカ先生はにこにこ笑っているだけだった。 それから他の奴らに聞いても、全員が口を揃えて休みだと言った。
--ナルトは確かにさっきまで居た筈だ。だとしたらさっきの暗部がナルトの記憶まで消した事になる。 --何故だ、何故ナルトの記憶を消す必要がある? --それはつまり…そんな馬鹿なことがあって堪るか!!だが、そうだとすれば…
俺はこの日辿り着いた結論を実証する為、ナルトを監視する事を心に決めた。
次の日ナルトは何事もなかったかの様に平然と登校した。
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