二年前

あの日、ワシは風の国に赴く用があり、ナルトを同行させた。

その頃のナルトは楽しい事も笑う事も知らなかった。

ナルトはいつも窓もない真白な部屋の中で独りきりだった。

火影の仕事は忙しい。

ナルトのところに行きたくても行けるわけもなく、かといって、ナルトが一人で外を出歩けば命を狙われる。

結局ほとんどの時間、話し相手もおらず、時間もわからない中たった独りで過ごしていたのじゃ、無理もない。

ちょっと目を離した隙に、誰かに殺されかける事はしばしばで、何度も死に掛けた。

こうしてわしが長期不在の時は尚更危険じゃ…それ故、いつも出張の際は同行させた。

表向きは封印が解けた際に掛け直せるのは自分しかいないから、ということになってはいるが。

 

 

 

 

* 自来也 - JIRAIYA -

 

 

 

 

此度、風の国を訪れたのは、風影を訪問する為じゃったが、それは表向きであって、

本当の目的はナルトをこの国にある温泉に連れて来てやる事じゃった。

ナルトの喜ぶ顔が見たくてのぉ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉を見たナルトは少し嬉しそうな顔をしたものの、普通の子供の様にはしゃぐ事はなかった。

 

「せっかくの温泉だというのに、楽しむ事も知らんのか?」

 

突然聞こえた声に振り返ると、側には白髪の大男が立っていた。

ワシはその男に見覚えがあった。

 

「自来也…か?」

「おぅ、お師匠…違った、三代目お久しぶりでございます」

「お主、何故ここに…」

「取材ですよ、取材!!(* ̄▽ ̄*)ノ" 三代目こそどうしてここに?」

「お主、相変わらずじゃのぅ…( ̄Д ̄;; 」

 

この際鼻の下を伸ばして、怪しげな筒(覗き用?)を持っていることは触れないでおこう…

 

「ワシは風影に会いに来たついでに、この子供を温泉に連れてきてやりとうてな」

 

自来也は視線を子供に向ける。否、自来也の意識はずっとこの子供に注がれていた。

 

「…三代目…この子供は…・・・まさか、あの時の」

「そうじゃ」

 

あの時とは、勿論己の弟子 - 注連縄を失った日である。

 

「やはりそうでしたか…どうりであいつによく似ておる」

 

自来也はまじまじとナルトを見つめ、ナルトはその様子を不思議そうな顔で見上げた。

 

「…おじさんは、おれのコトころさないの?うらんでないの?」

 

自来也は目を見開き、三代目は目を静かに伏せ、今までの事を話した。

事情を知った自来也はすぐに優しい微笑を浮かべ、ナルトの頭を撫でながら否定した。

そして決心したように三代目に向き直す。

 

「三代目、わしにこの子供を預けてはもらえぬだろうか?」

「?!」

「わしは人生の楽しさを教えてやりたい。このままでは悲しすぎるでしょう?」

「…」

「それに少し修行もつけてやりたい。反抗する事も出来ず弄り殺されるなどあってはならない」

「うむ…しかし…」

「里の者には誰にもわからない場所に強い結界を張って幽閉しているとでも伝えておけば安心するでしょう」

 

わしは己ではできなかった事をこの男に託してみる事にした。

ナルトの父 - 四代目火影を育てた男に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二年…

ナルトは帰ってきた。

そして、先の事件である…

はぁ…と小さく嘆息し、そして小さく微笑む。

 

「ちゃんと笑って暮らせるようになったんじゃな…」