Indignation // 02*

 

松平のとっつぁんも居ない今、俺たちは静かにことの成り行きに耳を済ませた。

どちらにしろ互いに潰しあってくれるだろう、というのが俺たちの見方だ。

 

 

 

「久しぶりじゃなぁ、高杉。元気しとったか?

相変わらず一癖も二癖もありげな顔しとってからに」

「お前は相変わらず惚けた顔してんなぁ、辰馬」

「苦労などしてない、という顔だな」

「ふん、そういうお前は相変わらず辛気臭い顔じゃのう、ヅラ。

のぅ、金時。おんしゃもそう思うじゃろ?」

「てめぇ、辰馬!まだそのネタ引っ張ってんのかよ!!!」

「ふん、お似合いじゃないか。金時」

「うっせー、ヅラ。てめぇこそヅラじゃねぇか!!!」

「む…ヅラじゃない、桂だ!」

「ヅラはヅラだろうが」

「ヅラじゃない!か・つ・らだ!!!!!!」

 

 

奴らの会話を聞きながら、俺たちは呆気にとられていた。

今まで世話になったこともあった。

助けられたり、助けたり、共に騒いだこともあった。

その銀時が天人と並ぶ俺たちの最大の敵である攘夷志士…

それも高杉をはじめとする最高クラスに君臨する伝説の志士たちと

ああも仲良くされてしまうと複雑な気持ちになった。

 

「本気で知り合いみてぇだな…」

 

タバコに火をつけ一吸いし、天を仰ぎながらフゥ〜っと煙を吐き出す。

ショックじゃないと言えば嘘になる。

いつも顔を合わせる度ムカつく奴ではあったが、あいつの信念そのものは

羨ましいほど真っ直ぐで好きだった。

それが箱を開けてみれば高杉や桂たちと同様の攘夷志士の生き残りか…

心の中に沸々とどうしようもない怒りが込み上げてくる。

 

「もうやめろ………そのふざけた会合を…やめやがれ…」

「トシ?」

 

近藤さんの制止を無視して俺は刀に手を掛け、奴らに近付く。

奴らは談笑に夢中なのか、それとも俺なんか気にもならないのか

一向に俺に気付くそぶりも見せない。

それがより腹立たしくて、僅かな吐き気さえ込み上げてくる。

楽しげに笑う銀時を目指して一歩、また一歩と歩みを進め、後一歩…

と、その瞬間…銀時の後方にキラリと光るものが見えた。

俺は咄嗟に銀時を庇うように身を乗り出し、

そして次の瞬間、今まで何度か味わったことのある痛みが腹部を襲う。

 

「トシィィイイイィ!!!!」

 

遠くで近藤さんや隊士たちの声が聞こえた気がした。

少しの空白の後…

薄っすら目を開けると目の前には驚いた銀時の顔があった。

 

「なんで…だよ」

「手間…か…けさせ…やがっ・・・て……」

「お…前、なんでオレなんか庇って…」

「……知…るか…俺…が…聞きてぇ……」

 

「くっそぉぉおおおおおお!!白夜叉、死ねぇええぇえええええ!!!!!」

「銀ちゃん、危な…」

 

神楽が叫ぶより早く、銀時を狙った男を二本の刀と一丁の銃が取り囲む。

 

「あっ…あ…」

 

男は恐れ慄き、冷や汗をダラダラと流しながら後退る。

が、後ろには先日の大雨で増水した川が轟々と流れ、

男はヘタヘタとその場に座り込んだ。

 

「だって…こ、こいつは、俺の兄貴を…死に追いやったんだ!!!!

白夜叉を…こいつを兄貴は愛していたから…白夜叉なんかのために命をかけて…」

「それのどこが悪いと言うのだ」

「愛する者の為に命を賭すことのどこが悪いんじゃ」

「銀時の為に命を投げ出した兄の為に兄が命を懸けた男を殺すか…

それも悪くねぇがな…クク。だが、相手が悪かったな。

悪いがこいつの命はお前なんかにゃやれねぇぜ?

こいつの魂は『俺のものだ(わしのもんじゃけ)!!!』

 

意識の片隅で銀時を狙った男の断末魔の声が聞こえた気がした。

俺は銀時を離すまいと腕を回し、意識を失った。

 

 

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