少し楽になった身体に鞭打ってオレは態々任務に行った。

別に影分身がシカマルに気付かれたって、いつも通りのサボリだと思ってくれるだろうから問題はなかった。

それなのに、何故オレは痛む身体を引きずってまで任務に出向いてしまったのか。

カカシとの最初のキスからオレはどうかしてしまっている…

朝には居なくなっていたアイツがどんな顔をしているのか見たいと思った。

 

 

 

 

 

//恋愛3//

 

 

 

 

「やっぱり来るんじゃなかったな…」

 

集合場所に辿り付いたオレは早々に後悔した。

今日は三班合同の任務…内容は堰き止められた川の中で養殖されている魚たちの捕獲。

川の深さは思ったより深く、軽く腰の辺りまであるみたいだ…

キバを筆頭にトランクス一丁の男どもが川に飛び込んでいく。

さすがに脱ぐわけにいかない女性陣は男たちが捕獲した魚を水槽に運ぶ役に回る。

いつもならキバと並んで真っ先に飛び込んでいく筈のオレが行かないのを誰もが不思議そうに見ていた。

チッと小さく舌打ちすると、見えないように変化の印を組み体の印を消そうとした途端、

突然の眩暈に片膝を付く。

 

「ナルト!」

 

オレを側で心配そうに見ていたシカマルが素早くオレの身体を支える。

いつもならこんな時にすぐに飛んでくるのはカカシなのに…今日はピクリとも動かない。

こんな時ですらオレはカカシの方を気にしている自分が馬鹿みたいだと思った。

あの男はどんな顔をしているのだろうとチラリと視線を流す。

カカシは相変わらず暢気な顔でこちらを見ていた。

いつもの何を考えているのかわからない、感情のない瞳で。

 

「クソ…」

「ナルト今日は帰ったほうがいい。俺が送るから」

「わかった」

 

オレはシカマルの肩を借り家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前一体どうしたんだよ……?!」

 

心配そうにオレを覗き込んだシカマルがある一点を凝視したまま動きを止めた。

その視線にオレはハッと息を呑み、慌てて襟元を隠す。

 

「それをやったのは誰だ…はたけカカシか?」

「…」

「そう…なんだな?」

「……」

「殺してくる」

「待て!」

「何で止めんだよ?!」

「少し落ち着けシカ!!」

「…まさか合意でやったんじゃねぇよな?!」

「違う…」

「じゃあ、何で止めんだよ…」

「わかんねぇ…オレにも何がなんだかわかんねぇんだよ…」

「……」

「悪ぃ…ちょっと一人にしてくれないか?今夜の任務はちゃんと行くから」

「わかった」

 

そう呟いてシカマルは苦虫を噛み潰したような表情で姿を消した。

オレは腕を目の上に置き、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それ以来カカシは態度こそ変わらないが、昼も夜も一切オレに触れなくなった。

オレはあの夜からおかしくなってしまったらしい。

心が、身体が泣いている気がする…あの男が欲しいと叫んでいる気がする。

 

「責任…取れよな」

 

オレは忌々しげに呟き、暗部の衣装に着替え夜の任務へと向かった。

そして任務場所に到着したオレはその場に座り込む一人の男を見て、呆然と立ち止まる。

 

何でここにアンタが居るんだよ…

「?…なんか言いました?」

「……いや…今日のパートナーは確か朱寂の筈だが」

「ああ…急に任務が入ったみたいで、俺が代わりです」

「……あの馬鹿

「どうかしました?」

「なんでもない。足を引っ張るなよ」

 

オレは振り返りもせず走り出す。

意識しないように、意識しないように…と自分に言い聞かせながら。

しかしそう思えば思うほど逆に意識してしまうものだ。

オレは前から飛んでくるクナイにすら気付かないほど、カカシに意識を集中させていたらしい。

 

--このまま刺さったら即死だな…

 

暢気なことを考えながら、オレはボーっとゆっくりと近付くクナイを眺めていた。

次の瞬間、オレの目の前にカカシが覆いかぶさった。

クッ…と小さく声がカカシの口から漏れた。

 

「何をしてるんですか?!総隊長ともあろうお人が…」

「なんで…」

「え?」

「なんで助けた…」

「ん〜なんでだろ…なんか守らなきゃいけない気がしたんですよねぇ〜本能的に」

「……その間延びした声は変わらないんだな…」

「え…」

 

オレはフッと笑みを零すと、傷ついたカカシを守るようにカカシの前に立つ。

徐に背中に背負った黒い牙を抜き、片手で複雑な印を組みながら刀を地面に突き刺す。

その刀を中心にして無数の黒い刃が円を描くようにオレたちの周囲を取り囲み、静止する。

オレは静かに敵の気配を読み、その方角に的確に刃を放っていく。

至る所から聞こえる悲鳴、そしてひとつ、またひとつと消えていく気配。

完全に気配が消えたところで、刃を発火させ死体を焼却する。

オレはフンと鼻で笑い、さっきからずっとこちらを驚いたように凝視しているカカシを振り返る。

カカシはふらりと目の前まで歩いてきて、ゆっくりとオレの面に手を掛けた。

柔らかい金糸に絡まないように、丁寧に紐を解く。

 

 

 

 

 

 

 

 

面の下から現れたのは端正な顔立ちの青年。

どこか己の師匠に似ているその顔…愛しいあの子供を成長させたらこうなるのだろう。

頬の印をそっと撫でてみる。

 

「大人になったら美人さんだね…」

 

いつも通りの暢気な口調なのに…俺の頬を伝う熱い雫が全て打ち消してしまう。

 

「あれぇ〜俺泣いてる?…なんでだろ…」

 

泣いているのは自分なのにどこか他人事のような気分だった。

 

「なんで泣くんだよ…アンタの知りたがってたホントのオレが見れて嬉し涙か?」

「そうかもね…」

「ねぇ、コレで満足?オレのこと知って満足した?」

「……」

「だったらもうオレを苦しめるのやめてよ…今此処で殺してくれていいから」

「…ナルト」

 

苦しそうに目を閉じるナルトの頬に手を掛け、俺は口布を下ろしナルトに口付ける。

 

「今度は逃げないんだね…」

 

ナルトはゆっくりと目を開ける。

今は同じくらいの高さにある藍い瞳と視線が交わる。

ナルトは俺の首に腕を巻きつけ、耳元で囁いた。

 

「もっと…これじゃ足りない…もっと頂戴」

「ナ…ルト?」

「殺さないなら責任取ってよ、センセー…オレあの夜からずっと苦しくてしょうがないんだよ…

全部アンタの所為だ…だから責任取って」

「責任なんて最初から取るつもりだったさ…」

 

俺は優しくナルトを抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、シカマルの部屋には大量の貴重な書物と一通の手紙が置いてあった。

 

--シカマルへ

ひとつ借りができたが、この借りは必ず返す。

それと恨みも一緒に返してやるから覚えてろ。

                    ナルト--

 

シカマルは素直じゃねぇ奴…とボソッと呟くと、嬉々として目の前の書物に向かった。