嬉しい、と言葉にするのは簡単だけど、本当に嬉しい時は多分何の言葉も出ないと思う。 自分が自分ではなくなる事、それは俺が望んだ事。 今、俺は本当に嬉しいんだと思う。 だってほら、何の言葉も出ない…ただ涙が溢れて止まらないだけ…
閑 * 木葉崩壊 - COLLAPSE -
十月十日…九尾がこの里を襲い、うずまきナルトに封印された日。 四代目火影が死に、一人の化物が誕生した日。
「うずまきナルトを処刑する」
上層部の決定に里中が歓喜に沸いた。 そして周到に計画された処刑は、今正にクライマックスを迎えようとしていた。
<九尾に最大の苦しみを与え、絶望の内に処刑する>
上層部が掲げたこの言葉を胸に、人々は今か今かと九尾の子供を待つ。 縄で厳重に縛られた子供が引き摺られ、高く組上げられた舞台の上に晒される。 或る者はこれから行われるであろう処刑に胸を躍らせ、 また或る者は子供への恨みの余り、強い殺気を飛ばし、舞台へ向かおうとして押さえつけられている。 皆に共通するのは、恐ろしく冷たい殺気の篭った眼。
『九尾に最大の絶望を!!』 『九尾に死を!』
口々に人々は呪いの言葉を吐く…その自分がどれ程醜い化物になっているかも知らずに… 子供はただ目の前の光景を冷めた瞳で見つめていた。 まるで自分の死などどうでも良いかの様に。 指揮を執っていた御意見番が周囲に合図を送る。 それに併せて人々は計画通り、舞台前を開ける。 そこへ運ばれて来た大量の屍骸。 子供の美しい碧眼からたくさんの粒が零れ落ちた。
「じいちゃ…イルカセンセ…カカシ…サスケ…サクラ…自来也…ネジ…シカマル…シノ …みんな…なんで…こんな…」
その頃…里の一角 「カカシ、なんとかならんのか!!」 『カカシ先生!!早く!』 「今やってる!少し黙ってくれ…クソッ!!こんな時に四神がいれば…」 『…』
三代目たちは強い結界の張られた一室に閉じ込められていた。 閉じ込められているのは、ナルトと関わりが強い者たち。 三代目火影を始めとして、アカデミー教師のイルカ、師匠の自来也、担当上忍のカカシ、 同じ7班の面々に下忍仲間たち。 その中には勿論ネジ、シカマル、シノの三人も含まれて居るが、その実態は影分身。 本体は任務の為里を離れている。 結界はカカシが居ることを想定されて考えられた特殊な物だ…
「結界を壊せないなら、穴を開ける事は!」 「ダメです…流れているチャクラの量が半端じゃない…」 「奴らにしてみれば命がけじゃろうて…でなければ、儂らを閉じ込めておくことなど早々できまい」 「ちょっとどいてください」 『イルカ先生?!』
考え込む三代目たちを押しのけ、今まで後方で静観していたイルカが何かを決意したように前に進み出た。
「三代目」 「良い。ナルトの為じゃ…致し方あるまい」
イルカは素早く変化を解く。煙の中から現れる暗部の耳には黒い珠が揺れていた。 カカシはその姿に見覚えがあった。 任務で何度か一緒になった事のある火影専属の特別暗部…
「イルカ先生が…黄榴…」 「カカシ先生、話は後です。そこをどいてください」
激しい勢いでイルカの体からチャクラが溢れだす。 そしてゆっくりと手をかざし、印を組みチャクラを流し込む…が、それでも出来たのはクナイ一つ通ればいい程の僅かな穴… イルカが弱いわけではない…それだけ結界の回復力が早いのだ。
「イルカ先生、次は二人で」 「儂もやろう」 「三代目…」 『俺(私)たちもやります』 「お前ら…」 「ナルトは俺たちの仲間だ」
サスケの言葉に全員が頷いた。
「よし、一気に一点に向けて流し込むんだ」 『了解』
ナルトはただ延々と涙を流した。 それを満足そうに見つめる人々…実際のところ幻術である為、ナルトに何が見えているのかは判らない。 が、ただ九尾が苦しめば彼らにとってはなんであろうと関係ないのだ。 その幻術の中で、己たちの崇拝する火影が殺されていようとも、 里を代表する名家の子供や、忍が屍となっていようとも… ナルトは確信した…この世にもう用はないと…ならば凱亜を解放してやろうと… 静かに瞳を閉じ、ナルトは意識を凱亜に開け渡した。
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