初めての暗部としての任務…

弱い人間を襲い盗みを働く抜け忍集団の殲滅。

悪い人間ばかりだとわかっていても…この生暖かい血や肉の切れる感触はとても…とても気持ち悪い。

身体に付いた血は洗い流せば落ちるけど、こびり付いた臭いはいくら洗っても落ちない。

自分がとても汚い気がして何度も何度も身体を擦る。

凱亜は己の力を鎮める為、深い眠りの底にいる。

奇しくも今日は満月…九尾の力が最大になる時。

この時だけオレの碧眼は深紅に染まる。

血の様な紅い色…オレにはお似合いだと思う。

誰かが結果内に入ったのは知っていた。

別にどうでもよかった…オレに牙を向けるなら殺すだけだから。

 

 

* 白狐 - BYAKKO -

 

 

任務の帰り道、綺麗な満月の夜…歌声が聞こえたんだ。

歌声に向かって進んだ先は鬱蒼と木の生い茂る禁忌の森。

 

「結界?!でかいな…なんでこんなところに…」

 

気付かれる事を避ける為、壊さず小さな穴を開け、気配を消して侵入する。

その声の主は大きな湖で水浴びをしていた。

金色の長い髪。白い肌を伝う水がキラキラ輝いていた。

そして、宝石の様な紅い紅い、深紅の瞳。

 

「キレイ…」

 

口に出してハッとする。

自分の口からそんな言葉が出ると思わなかった。

閉じたはずの心が無理矢理抉じ開けられた気がして、静かに目を閉じる。

次の瞬間首筋に走る冷たい感触に、ゆっくり目を開けると一人の暗部が目の前に居た。

その顔には、

 

「狐の…面…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の光にキラキラ輝く銀色…綺麗だと思った。

自分と同じような臭いがする…

それが誰なのかすぐにわかった。

 

「写輪眼のカカシ…か」

 

父である四代目火影の教え子にして、里で一二を争うエリート暗部。

その男は何をするでもなく、俺をじっと見つめていた。

いい加減見つめられているのも気分が悪くなったので、興味があることも相俟って、

暗部姿に変化してカカシの目の前に気配も消して立った。

もちろん、水辺には影分身を残して。

カカシは何かを堪えるかの様に唯一見える右目を閉じていた。

オレは徐に取り出したクナイを明らかにオレに気付いていないカカシの首筋に当てる。

ゆっくりと目を開けたカカシにははっきりとショックの色が浮かんでいる。

 

「写輪眼のカカシも大した事ないね」

 

クナイをそっと外し、呆れた様に呟いた言葉。

じいちゃんの愛する木ノ葉の里。

その里のエリートがこの程度では、この里はいつか滅ぶ。

オレと同じ臭い、オレと似たものを感じるあんたならもっともっと強くなれるはずだ。

 

「もっと強くなりなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分はこれでも里で一二を争うエリート暗部だ。

そのオレがこうも簡単に命の危機に面しているなんて…ありえない…

それにこんな暗部など知らない。

明らかに木ノ葉の暗部であろうが、狐の面はこの里では禁忌とされており、身に付ける者などいないはずだ。

そしてその暗部の姿…髪の色は違うがこの姿は…

 

「セン…セ…」

 

呟きかけた言葉にハッと息を呑む。

その人物はいるはずの無い人間。

六年前、九尾を封印して死んだのだから…

 

「お前は…誰だ?」

「…オレの名は白狐」

「白狐…何故こんなところにいる?」

 

その質問には答えず、視線だけ水辺にいる影分身にやる。

 

「護衛…か?」

「…まぁそんあところだ」

「あの子供は…」

「……さぁな」

 

その瞬間、一瞬にして子供とその暗部は消えた。

 

「なんなんだ一体…」

 

俺は夢でも見ているようだった。

美しい月の様な金色の子供と自分のよく知る人にそっくりな銀色の暗部。

生きる事に疲れた俺自身が見せた幻だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから俺はあの金色と銀色を探した。

そのうちの銀色 - 白狐についてはすぐに知る事となった。

俺が初めて会ったあの日、白狐は入隊初日にしてビンゴブックに載った。

暗部の間でも噂になったが、誰一人彼を見た事のある者はいなかった…

火影様にも聞きに言ったが何の情報も得られなかった。

金色は…思い当たる人間が一人居た。

しかし、それはあの月の様な金色とは正反対の碧い瞳の太陽の様な少年だった。

紅い瞳の金色は里のどこにも存在していなかった…

あの銀色が言った様に強くなれば、美しい金色にまた会う事が出来るのだろうか?

また会える事を期待して、俺は今日も修行に励む。