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//観察日記2//
最後のページ… ヒル魔父の手紙と同じ様に糊付けされたページ。 カッターを使い、丁寧に開く。 同じ様に中から現れる小さく折りたたまれたメモ。
--昼休み、屋上に来い。
この字には見覚えがある。 自己主張の激しい整った文字。
「やっぱり親子ね…」
小さく呟くとまもりは静かに日記を閉じた。
翌日の昼休み、まもりはドキドキする心臓を押さえながら屋上へ続く階段を上った。 小さく深呼吸をし、ゆっくりと鉄の扉を開ける。 目の前に広がる青い空。 しかし、そこには誰も居なかった。
「居る訳ないわよね…っていうかいつの昼休みよ!」
一人文句を言いながら戻ろうと踵を返すと、頭上から聞きなれた声が聞こえた。
「遅ぇ。ったく、このままノート終わっても気付かねぇんじゃねぇかと思ったぜ」
その声はどうやら入口の上から聞こえるらしい。 グルッと周りを回ってみると梯子があったので、まもりはそれを使って上る。 そこに居たのはは案の定、自分が恋して止まない悪魔−蛭魔妖一だった。 ヒル魔は長い足を伸ばし寝そべり、空を見上げていた。
「てめぇ、遅ぇんだよ。いつまで待たせる気だ」
まもりは、自分に目もくれず一人で喋るヒル魔に負けじと反論しようとするが、 ヒル魔の顔に目をやった途端何も言えなくなる。 無邪気に空を見上げる瞳に青い空が映ってキラキラしている。 不敵に微笑んだ形の良い唇。
「上るか降りるか、どっちかにしやがれ」
その言葉で我に返ったまもりは、そそくさとヒル魔の隣に腰を下ろす。 そして呼吸を整え、ゆっくりと尋ねる。
「ねぇ、あれいつ書いたの?」 「さぁな」 「待ってたって…どのくらい?」 「忘れた」 「何で私をここに呼んだの」 「何ででしょう?」 「もぅ!真面目に答えてよ!!」
ヒル魔はあっけなくまもりの言葉を無視して起き上がり、パンを食べ始める。 まもりもしょうがなく持参した弁当を広げ食べる。 時折弁当の中から消えていくおかずを嬉しそうに眺めながら、もぅ…とまもりは微笑んだ。 食べ終わって再び寝転ぶヒル魔に倣って、まもりも隣に寝転ぶ。 どこまでも広がる青い空。 流れる白い雲を目で追いながら、まもりは再び尋ねる。
「ねぇ」 「なんだよ」 「あれ、中身読んだんでしょ?」 「読んでねぇよ」 「じゃぁ、何で呼び出したりしたの?」 「わからねぇのか?」 「ええ、わからないわ」
まもりは静かに答える。 依然として心臓はドキドキしたままだが、自然と落ち着いている。
「ねぇ、何で?」 「…一言……言っておこうと思ってな」
そう言ってヒル魔はゆっくりとまもりの耳元に唇を寄せる。 耳元で囁かれた言葉にまもりの心臓は弾けて壊れてしまいそうになった。 一気に茹ダコ化したまもりに満足した様にヒル魔は再び体勢を戻し、目を閉じた。 まもりは今でもバクバク言っている心臓に手を当て、ヒル魔の顔にゆっくり近付く。
「私もヒル魔君が好き」 「知ってる」
そう言って目を開けたヒル魔に引き寄せられ、唇が柔らかい物に触れた。 生暖かい息がくすぐったくて開いた隙間からヒル魔の舌が入り込む。 深い深い口付けを名残惜しむ様に唇を離すと、まもりはヘナヘナとヒル魔の胸に倒れこんだ。 ニヤニヤ笑うヒル魔の余裕が何だか悔しくて、まもりは小さく悪態をつく。
「…何すんのよ、バカ///」 「なんだよ、したかったんじゃねぇのか?」 「///…ヒル魔君のバカ・・・」 「そんな真っ赤な顔で睨まれても怖くねぇよ」
ケーッケッケといつも通りの笑いに、もうどうでもよくなったまもりはヒル魔の胸に頬を摺り寄せる。 そっとヒル魔の腕が背中に添えられるのを感じて微笑む。 そしてふと思う…
--さっき、ヒル魔君「知ってる」って…
「やっぱり中身見てたんじゃな〜い!!!!」 「さぁな。別にヒル魔くんカッコイイとか、凄く好きとか興味ねぇし」 「…そ…そんな事書いてないわよ!///」 「13ページ目、あとその次。っつーか後半ほとんどだな」 「…///やっぱり見てるじゃない…何で全部覚えてるのよ!」 「俺への愛の言葉が詰まってたからな(ニヤニヤ)それにそう簡単に弱み握られても困るしな」 「やっぱり最低…」 「その最低が好きなのはどこのどなたでしたっけ?」 「うぅ…いいもん。これからはいっぱい観察して誰も知らないヒル魔くんの秘密見つけて、 本物の観察日記作ってやるんだから!」 「あぁそうですか、せいぜい頑張ってクダサイ。ま、俺程完璧な人間は居ねぇから、惚れ直すだけだろうがな」 「もう…何でそんなに自信満々なのよ…」 「ケーッケッケ」 「先は長いわね…」 「せいぜい俺だけを見てやがれ」 「言われなくてもそうします」
まもりをギュッと抱き締めるヒル魔の背中にそっと手を回し、まもりは柔らかく嬉しそうに微笑んでいた。
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