//或る放課後の出来事//

 

 

放課後、いつものように部室の扉を開けたまもりは、いつもと違う光景に目を疑った。

そして扉を閉めてさっきの光景をよ〜く思い出してみる。

 

「金髪美女と黒いヒル魔く…」

「あぁ?なに言ってんだ、糞マネ。とうとう頭に虫でも湧いたか?」

「え…??ヒル魔君?!」

 

突如現れた、というかまもりが扉を閉めた時から前にいたが、

人物に驚きぱっと顔を上げるとそこにはさっき部室内で見たはずの悪魔が訝しげな顔をして立っていた。

 

「なんでここにいるの?」

「はぁ?なにほざいてやがる?じゃぁ、てめぇはなんでココニイルンデスカ?」

「そうじゃなくて、さっき部室の中で金髪美女ときっ…!///」

「き?」

キスしてたじゃない…///」

「はぁ?なに言ってやがる。俺はたった今来たところだ。てめぇ脳みそ腐って幻覚でも見たか?

一回病院行って来たほうがイインジャナイデスカ?」

「…そういえば、さっきのヒル魔君髪が黒かった…」

「…」

 

急に静かになった悪魔は、勢い良く扉を開け固まった。

 

「ヒル魔君?」

「なんでここにいやがる…」

「え?なに言って…」

「久しぶりに日本に帰ってきたから、会いに来てあげたんじゃない。もっと喜びなさいよ」

「人の部室でイチャついた挙句に喜べときたか。

いい加減にしやがれ!!この糞…「エェッ!?ヒル魔君が二人いるっっっっ!!」

 

悪魔の視線の先にやっとのことでたどり着いたまもりは瞠目した。

 

「ハァ…なんでてめぇはそういう安直な思考しか持ち合わせてねぇんだ、糞マネ」

「女の子に糞なんて使っちゃダメだろ、妖一。ごめんね、口の悪い息子で」

 

そういって黒いヒル魔がまもりに微笑んだ。

 

「へ…?息子??ヒル魔君のお父さん?!」

「普通見ればわかるだろ…これだからつまみ食い風紀委員は…」

「それは関係ないでしょ!!ていうか、お父さんこんなにいい人なのになんでヒル魔君はこんななのよ?!」

「誰に似たんだろうな?」

「ホント誰に似たんだろうね…」

 

前者は金髪美女の方を見てさも楽しそうに笑い、後者は遠い眼をしたまま止まってしまった。

 

「どういう意味かな、糞息子サン?」

「どうもこうもてめぇが元凶だってことだよ、糞ババア」

「えぇ?!お母さん、糞って…」

 

まもりが現在の状況を把握できずに混乱している間に、いつの間にか部室は戦場に…

そしていつの間にかやって来た部員たちはその光景に一人のデブを除いて固まった。

 

「あ、ヒル魔のパパさん、こんにちは〜」

「やぁ、栗田君。久しぶりだねぇ」

 

後ろの銃撃戦が嘘のように、和やかな空気が流れ、全員がはっと我に帰る。

 

「は?」

「ハァ!?」

「はぁあぁあ!!?」

「ヒル魔さんのお父さん?!」

「すげぇそっくりっす…」

「フゴッ!」

「うん、似すぎ!!ていうかヒル魔さんって実はものすごい美形だったんだぁ」

「妹よ、お兄ちゃんのほうが美しいだろぅ??」

 

以上ハァハァ三兄弟、セナ、モン太、大吉、鈴音、バカの順番である。

鈴音の一言にバカの言葉を無視して全員がまじまじとヒル魔父の顔を見る。

 

「「「「「「「確かに…(フゴッ)」」」」」」」

「まも姉、さすが見る目あるぅ!」

 

突然ふられたまもりはやっとのことで蘇生し、そして一瞬にして真っ赤になった。

 

「なっ、なに言ってるの鈴音ちゃん?!///」

「だって、まも姉いつもヒル魔さんのこと見てるでしょ?」

「へぇ、そうなんだぁ。妖一のことをねぇ…」

「お父さんまで!違います!!大体なんで私があんな口悪、性格悪…とにかくそんなわけないじゃない!!///」

「ふ〜ん、そっかぁ…あっ、そろそろ止めないとねぇ」

 

ヒル魔父は少し残念そうな顔をして、そして思い出したように激しい銃撃戦の中に入って行った。

 

「「「「「「「「「えっ?!あれを止める??」」」」」」」」」

 

うん、と笑顔で返すヒル魔父に全員がどうやって止めるのか興味津々で見つめた。

 

「二人とも、いいかげんにしなさい!!」

「あぁ?なんだ糞オヤジ」

「なぁに?糞ダンナ」

「観察日記読んじゃおうかなぁ」

「「!?」」

「いいの?」

「「やめます」」

 

ヒル魔父が徐に取り出した『蛭魔家観察日記』を見た瞬間…

今までの銃撃戦は嘘のように終りいつも通りの空間に戻った。

部員たちはその観察日記を興味津々で見つめている。

 

「何が書いてあるんですか?」

 

さすが怖いもの知らずのまもりである。そこに銃弾が2発。

 

「「知らなくていいことだ(よ)」」

 

そこで部員たちはそそくさと静かになった部室でさっさと着替えグラウンドに脱出したのは言うまでも無い。

まもりもそれ以上追求するのを止め、自分の仕事にとりかかろうとしたところに、

ヒル魔母のせっかくだし皆でバーベキューでもするか、という提案が可決され、

協議の結果、練習のないまもりが買出しを言い渡された。

そして一人では持てないだろうという事で、ヒル魔父が生贄にされたのも言うまでも無いことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

買出しも無事に終わり、帰り道。

 

「ちょっとここ寄ってもいいかな?」

 

小さな文具屋さんで、ヒル魔父は一生懸命何かを探しているようだった。

まもりは外でぼんやりとその光景を眺めながら、ハァ…と溜息を吐いた。

 

--なんでお父さんはこんなにいい人なのに…ヒル魔君ももうちょっと優しくしてくれてもいいのに…

 

「妖一は妖一なりに十分君たちの事を大事にしてると思うよ?」

「へっ?!わっ私…///もしかして声に出てました?」

「うん」

 

ヒル魔父はそんなまもりに嬉しそうににっこり笑う。

そして徐にはいっと手渡された物。

それは可愛らしいブルーの日記帳とピンク色のボールペンだった。

表紙にはいつの間に書いたのかピンク色のマジックで『妖一君観察日記』と書かれていた。

 

「これ…」

「妖一を落とすなら、これがないとね。母さんもこれでやっと結婚までできたから!!」

「??…私…別にヒル魔君のこと…」

「それでもいいから持ってて。少なくとも君は妖一のそばにいることを許された唯一の女の子だから。

それにやってみると結構楽しいんだ、これが」

 

最後の楽しいという言葉に妙に惹かれてやってみます!と宣言したまもりは、ふとさっきの日記を思い出す。

 

「あの日記ってどんなことが書かれてるんですか?」

「ん〜それ言うと殺されそうだしなぁ…(汗)」

 

遠い目で言われてしまえばそれ以上問うこともできず、手元の日記帳をじっと見つめ、徐に開いてみる。

中には1枚の写真が挟まっていた。

見たことのない無邪気な笑顔で笑う悪魔と柔らかな笑みを受かべるその母の姿に自然と顔が綻ぶ。

 

「それ可愛いでしょ?でも、なんでか2人とも恥ずかしいって言うんだよねぇ…」

「まさか、観察日記ってこういうのが沢山あるんですか?!」

「それは君が蛭魔家にお嫁さんに来てくれたら教えてあげるよ!それまで観察頑張ってね」

「お嫁には残念ながら行けないと思いますけど…観察日記は頑張ります(^-^)」

 

その日の夕方、楽しそうな笑顔のまもりと

さわやかな笑顔を振りまく黒い悪魔が楽しそうに歩いているところが目撃されたらしい。

更にその同時刻、グラウンドでは銃を持ったいつもの悪魔と

同じく銃を持った金色の美女に追い回されるアメフト部員たちが目撃されたとかされなかったとか。