「危ない!避けろ、姉崎!!」

 

--今姉崎って呼んだ…?糞マネじゃなくて、姉崎って…

 

それは幸運な偶然。

雨の中で練習していたヒル魔くんが珍しく手を滑らせて、そのボールが私の頭にクリーンヒットしたのは…

 

「まもり姉ちゃん!!」

「まもりさん!」

「姉崎さん!!」

 

心配そうに私の周りに集まる部員たち…その中でバツの悪そうな顔をしたヒル魔くんを見た瞬間…

私は思いついてしまった。

あのヒル魔くんが優しく私を抱き上げ、部室へ運ぶ。

私の頭は計画でいっぱいで、漏れそうになる笑いを堪えるのが精一杯だった。

 

「まも姐大丈夫?」

 

看護を任された鈴音がまもりの顔を心配そうに覗きこむ。

ヒル魔が行ってしまうのを横目で確認し、まもりはゆっくりと体を起こす。

 

「まも姐起きて大丈夫なの?!みんな呼んで来るね!」

「待って!」

「え…」

 

みんなを呼びに行こうとする鈴音をまもりは引き止めると、鈴音に耳を貸すように言う。

 

「鈴音ちゃん、お願いがあるんだけど…」

 

 

 

 

 

//欺瞞//

 

 

 

 

 

 

「みんなちょっと来て!!」

『どうした(の)?!』

 

慌てて練習中の部員たちを呼びに来た鈴音の様子に全員が練習の手を止める。

 

「まもり姉ちゃんが気が付いたの?」

「う、うん…気が付いたは気が付いたんだけどね…」

 

言いにくそうに目を逸らす鈴音に全員が訝しげな顔をする。

一番不安そうな顔をしているのは、ボールをぶつけた本人であるヒル魔だった。

ヒル魔はチッと舌打ちして部室へ走る。

その姿を部員全員が追いかけた。

そして辿り付いた部室の入口にヒル魔は呆然と突っ立っていた…

セナはヒル魔の横をすり抜けまもりの側に行く。

 

「まもり姉ちゃん?」

 

次の瞬間まもりから漏れた言葉に、ヒル魔が呆然としている理由を全員が理解した。

 

「誰?」

『…嘘だろ…』

「まもり姉ちゃん!僕だよ!!幼馴染のセナだよ!覚えてないの?!」

「……セナ?ごめん…なさい…何もわからないの…」

「そんな…」

「どうしよう、ヒル魔ぁ〜」

 

栗頭の巨漢がオロオロとヒル魔に訴えるが、ヒル魔は一向にその場を動こうとしなかった。

 

「とりあえず病院だな」

「うん」

「だな」

「待って」

 

三兄弟の意見を鈴音は何故か制止する。

どうして止めるのかと不思議そうな顔で全員が鈴音に注目する。

 

「まず様子を見ましょ?もしかしたら一時的なものかもしれないんだし…」

「…そうだな…」

「だけど、こんな状態のまもり姉ちゃんを家になんて連れて帰れないよ?」

「そうね…家族には今日は私の家に泊まるって連絡して、明日になっても治らない様なら病院に行きましょ」

「でも誰が姉崎さんを預かるんですか?」

「家に誰も居ない一人暮らしの人って言ったら…」

『ヒル魔さん(くん)!』

「加害者なんだし、そのくらいいいでしょ、妖兄ぃ?」

「……わかった」

 

鈴音の言葉に罪悪感を感じていたのか、ヒル魔は簡単に了承した。

こうして部活が終わり、ヒル魔はまもりを連れて帰宅する。

 

「頑張ってよね、まも姐…」

 

心配そうに見送るセナの隣で鈴音は小さく呟いた。