暗い部屋の中、ナルトは床に座り込み窓越しに丸く輝く月を見上げていた。

数分前から、この部屋にはもう一人…所謂侵入者が居た。

が、特に殺気も感じないものだから、面倒なことを嫌うナルトはその存在を無視していた。

時は刻々と流れて行き、痺れを切らした一人の忍が姿を現す。

 

「何の用?」

 

ピクリとも反応せず、ただボソリと囁かれた言葉にその忍は自然に笑みを漏らす。

 

「気付いていたのならば、一声掛けてくだされば良いのに…お人が悪い」

「アンタもどうせ出てくるつもりなら、普通にうちに来れば良かったてばよ」

 

忍はそうですね。と笑う。

 

「ですが…例え普通に訪ねたとしても、警戒して本体では会って下さらない気がしましたので」

「確かに…で、何の用?」

「…ナルト様、実はアナタ宛てに木の葉隠れの里最高評議会より伝達が届いております」

「……オレ宛に伝達?…一体なんだってばよ?(とうとうオレの抹殺命令でも下ったか?)」

「これより三日の後、十月十日をもって六代目火影に就任されたし。

伝達は以上で御座います」

 

 

 

最終話 * 就任 - INAUGURATION -

 

 

 

 

「どういう意味だ」

 

一瞬にしてさっきまでの雰囲気とは全く異なった気配を放つ目の前の人物に驚くことなく、

忍は淡々と応える。

 

「私は何も。ただ伝達をお伝えに上がっただけで御座いますので」

「何故オレに対してそんな仰々しい言葉を使う?」

「それは…アナタ様が六代目火影になるべく選ばれた方だからで御座います」

「それがお前らの恐れ、憎み、嫌う狐だとしてもか」

「……そうで御座います。それに…少なくとも私はアナタ様を一度もそのように思ったことは御座いません」

「……オレは…火影になる気はない」

「いえ、これは里の最高責任者である五代目火影様が決定された事項に御座います。

故に、アナタ様には拒否権は認めないとの五代目様のお達しで御座います」

「……」

 

その言葉を最後にナルトはその場から姿を消した。

ナルトの気配の行く先を追いながら、忍はクスリと笑みを漏らす。

 

「ったく…しょうがないなぁ、ナルトは。まぁ、これも親譲りってとこか…

と、そろそろ薬の効果が切れるな…さっさと退去しないと」

 

忍は木の葉と共にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナルトは綱手の前に立っていた。

額に青筋をいくつも浮かべ、美しいが氷のように冷たい笑みを浮かべながら…

 

「やっぱり来たか…」

 

あからさまに嫌そうな顔をする綱手にナルトの額にピクリと青筋が一本増える。

増発中の青筋に怯えながらも、氷の微笑を浮かべるナルトに微笑む。

 

「ナルト…お前には実力も、血筋も揃っている。」

「……オレは火影になる気はない」

「何を言ってもムダだ。これは里長である私の命令であり、そして里人たちが望む事だ」

「ふん…里人が望む?わかって言っているのか?あいつらが今までオレに何をした?!

望むなんて簡単に言うな!そんなことはありえない」

「ありえるさ」

「なっ…」

「これが、その証拠だよ。ナルト」

 

綱手が静かに印を組むと二人の目の前にたくさんの巻物が転がる。

その一本を手に取り、ゆっくり紐を解く。

そこにはつらつらと、ただつらつらと名前が記されていた。

所々に小さな文字で何かメッセージのようなものが書かれている。

凝視すると…「ごめんなさい」「すまない」…と懺悔の言葉が並んでいた。

 

「本当は最初からわかっていた…ナルトが悪いんじゃないってことは。

でも、俺は弱いから、一人ぼっちになるのが怖くてお前を傷つけた…本当にすまなかったと思ってる」

 

「九尾が怖くて…いつかまたあんなことが起こるんじゃないかって…

そう思ったらどうしようもなくて…でもアンタは何をされても笑ってた。

それ見てたら自分がどんどん醜くなっていく気がし、そんで気付いたんだよ。アンタは何も悪くないって」

 

「もっと信じるべきだったんだ。四代目が何故アンタを器として選んだのか。

四代目が信じたように私たちも信じるべきだった…四代目の息子であるアンタを!」

 

『私たちに償いをさせて欲しい…アナタに対して、そして四代目に対して私たちが犯した罪を…

その為にも、どうか私たちの里長としてこの里を治めて欲しい』

 

最後の件にナルトはん?と眉毛を上げる。

 

「なんでその為にオレが里長になる必要があるんだ?」

「あるんだよ、そいつらには」

「意味わかんねぇ」

「お前が火影になるのは四代目の最後の望みだからだ」

「え…父さんの…」

「そうだよ、ナルト」

 

自分の背後に立った男の声にナルトは驚いて振り返る。

突然背後に立たれたことに驚いたというよりは、

寧ろ自分が男に気付かないほど綱手との話に集中していたことに驚いたようだ。

そんなナルトに微笑むとカカシはそっとナルトを腕の中に引き込む。

慌ててギューギューとカカシの胸を押すが、その腕はビクともせず、諦めたように嘆息すると

ナルトはどういう意味だと言わんばかりに睨み上げる。

 

「そう睨まないの、話してあげるから」

 

カカシの話す内容はナルトには全く理解できなかった。

要約すると…

先日、カカシの元に一通の手紙が届いた。

それは亡き師匠からのありえない手紙。

そして、それと同時刻…四代目が生きていた当時この里で暮らしていた全ての里人に

同じく手紙が舞い降りていた。

その内容の隅々に、ナルトを気遣う父の心が読み取れた。

 

自分の息子は無事里で暮らしているだろうか。

九尾の封印が解けてしまってはいないだろうか。

自分の息子は自分のことを知っていてくれるだろうか。

恨んでいないだろうか。

自分の跡を継いで火影になっているのだろうか。

 

文章は短くとも、毎日里を巡り人々に声を掛けていた四代目の言葉だとよくわかった。

 

自分が守った里は今も変わらず美しいだろうか。

人々は楽しく生きているだろうか。

あの時の子供は大きくなったのだろうか。

 

里中が涙を流し、そして己が犯してきた罪を認めることができた瞬間だった。

そして、四代目の望みを叶える事が最初に出来る罪滅ぼしだと考えた。

 

「でも、それってさぁ…オレの意思無視でしょ?それにそんな理由でオレを里長になんてしてもいいわけ?」

「だって、みんなナルトが火影に相応しいって思っちゃったんだもん。

ナルトの実力も、今までナルトが何をしていたのかもみんな全部知ってるよ」

「…なんで?!」

『俺(私)たちがバラしたから』

 

声のした方を振り返るとそこには古くからの仲間たちが立っている。

困惑した表情のナルトに皆が笑う。

 

「だって、ナルトの火影姿見たかったんだもん!」

「ナルトくん……絶対…似合うと思うよ///」

「なんたって火影はアンタの夢でしょ!!ウソでもホントでも自分の言った事には責任持ちなさいよ!」

「そうよ、ナルト〜今更ならないなんてズルイよ〜」

「僕、ずっとナルトが火影になったらいいなって思ってた」

「俺だってそうだぜ!!お前が火影なら里は絶対もっと楽しくなるだろ!!」

「ワンワン!!」

「みんな、ナルトくんに希望を持ってしまったんです!男なら責任取ってください!」

「お前ら…」

 

『観念しろ、ナルト』

 

3つの聞きなれた声、紅、蒼、翠の珠を揺らし嬉しそうに笑う声。

その笑顔を見てナルトは言われた通り観念した。

 

「わかったよ。三日後の十月十日…オレは火影になる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後…

就任を控えたナルトの手元に一通の手紙が舞い降りる。

四代目の刻印を一撫でするとそっと封を開ける。

その手紙にナルトの瞳から一滴の涙が零れる。

 

--ナルトへ

大事な大事な僕の息子、ナルト誕生日おめでとう。

今日は二十回目のキミが生まれてきてくれた、僕の人生の中で最も嬉しい日だ。

本当に生まれてきてくれてありがとう。

キミをずっと見守っていけないのはとても辛いけど、本当に辛いんだけど…

それでもこんな僕を父と呼んでくれるのなら僕はそれだけですごく幸せだよ。

そうそう、今日から大人の道を進んでいくキミに僕からプレゼントを送るよ。

いつか僕の跡を継いで火影になる日があるのならば、これを着て欲しい。

なんかプレゼントって言うよりは押し付けみたいな感じになっちゃったね…

見てみたいな…ナルトの火影姿…

ああ、もう僕の命が途切れてしまうみたいだ。

キミを置いていく僕を許してとは言わない。

ただ生きて…僕の分のいっぱいいっぱい幸せに生きて欲しいな。

愛してるよ、ナルト。

 

涙が手紙に落ちると同時にポンと音を立てて封筒から布が現れる。

開いてみれば、それは四代目が僅かな在任期間愛用していた着衣。

それをギュッと抱き締める。

 

「ありがとう、父さん」

 

ナルトはその服に腕を通し、そして父の望んだ道へ向かい一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

今更なんですが…いや、ホントに今更なんですが誕生日ネタ。

どうしても火影就任=誕生日にしたかったんですよね…(ちっちゃなこだわり)

シリアスに終わってみれば、結局カップリングなんのって普通に総受け?

まぁ、それはそれで本望です!!

とりあえず、火影就任がすべてのお話の最終話となります。

今後は、気が向いたら抜けてるところを書いたり

突然番外編書いたりするかもしれません。

最後に、このお話は壱拾万打記念も兼ねておりますので

期間限定なしでフリーとさせていただきます。

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ここまで読んでいただいてありがとうございました☆