「今年のクリスマスは一人か…」

 

仕事から帰宅途中のイルカは、誰も居ないであろう家を思って大仰に溜息を吐く。

真白な息が否応にも寒さを助長し、

彼女でも作っておけばよかったかなぁ〜と周囲を見回しながら手を摺り合わせた。

毎年ナルトと過ごしていたクリスマス…

降り出した雪が少しずつ肩に積もっていき、それに並行して家へ向かう足取りも重くなる。

ゆっくりと雪を踏みしめながら辿り付いた家…

自分の家に灯る明かり、薄っすらと感じる気配にイルカは慌てて走って行った。

 

 

 

 

PRESENT

 

 

 

 

「ハァハァ…ナル…ト」

「イルカ先生、お帰り」

 

扉の向こうには案の定、自分が思って止まなかった人物が居た。

玄関まで不思議そうな顔で、ナルトは出迎える。

 

「そんなに慌ててどうしたの?」

「ナルト…お前なんで…」

「来ちゃダメだった?」

「だって…」

 

その先を言おうとしてイルカは口を閉じた。

俺なんかの所に来ていいのか?…なんてとても皮肉っぽかったから…

ナルトと一緒に部屋に入ると、コタツにスッポリと嵌っている上忍がニッコリと笑った。

 

「どーも」

「今夜の任務、偶々一緒だったから連れて来ちゃった」

「すいませんね、なんか俺まで…」

「構いませんよ」

 

後頭部に手をやって、申し訳なさそうにするカカシの仕草にイルカはフッと笑う。

その微笑にナルトとカカシもニッコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

「んで、何か食べたのか?」

「何もー」

「一応材料は買ってきたんですけどね〜ナルトがイルカ先生の味がいいって言うもんで」

「味ったって…鍋に味も何もないと思うんですけどね…」

 

そう言って材料の野菜たちを持ち上げてみる。

 

「イルカ先生の出汁が一番美味いんだもん!」

「ったく…しょうがないな〜カカシ先生手伝ってもらえますか?」

「え…あー、はい」

 

普通ならいつも自分に手伝えというのに、カカシを呼んだイルカに首を傾げながらも

ナルトは幸せそうに微笑む。

 

「いつからあんなに仲良かったんだろ、あの二人…」

 

 

 

 

 

 

「すみません、ナルトにこんな顔見せたくなくて…俺今凄い顔してるでしょ?」

「ええ、そりゃあもう…目一杯嬉しそうな顔してますょ」

 

最初自分が手伝えと言われた時は何事かと思っていたが、知ってしまえばなんて事ない。

顔を真っ赤に染めて満面の笑みを浮かべるイルカをカカシはボーっと眺める。

 

「こうやって来てくれると思わなかったんです…毎年来てたけど、今年はもう来てくれないと思ってた…」

「それは自分が暗部でずっとナルトを守っていたことを隠していたからですか?」

「俺はナルトを騙していた…」

「ナルトとイルカ先生はそんなにつまらない仲なんですか?」

「……」

「少なくともナルトはアナタの事が今でも大事で、大好きですよ」

「…カカシ先生…ありがとうございます。

あー、今日アナタが来てくれて本当に良かった…これでアレも実行できるし…」

「・・・?」

 

 

 

 

 

 

三人で鍋を突っつき、クリスマスケーキを食べた。

食べ終わるとナルトは普段の任務の疲れもあるのか、はたまたいつもは安心してきちんと

眠れて居なかったのか、コタツの中ですやすやと眠ってしまった。

そんなナルトを愛しそうに抱き上げ、イルカは隣の部屋に布団を敷いて寝かせた。

そしてカカシと共に一つの巻物を持って外に出る。

 

「イルカ先生、その巻物は…」

「資料庫から持って来ちゃいました」

「持って来ちゃったって…アンタ…」

「これ二人居ないと無理だったので今までは放置してたんですけど、

今夜はカカシ先生も居ることですし、イイかなぁと思って」

「一体何の巻物なんです?」

「穢土転生の改良版…と言えばわかっていただけますか?」

「…まさか…」

「そのまさかですよ。ナルトの父−四代目を呼び出します」

「……しかし、それならば死体が必要では」

「死体の代わりに生者の身体に転移させる事で、精神に変化を及ぼさない術なんです」

「そんなことが…」

「カカシ先生なら俺と同じ気持ちだと思いますし…それに…カカシ先生も会いたいでしょ?」

「そりゃまぁ〜」

「他の子供たちも居ない事ですし、今夜はクリスマス・イヴですからね…このくらい三代目も

大目に見てくれるんじゃないですか?」

「そうですね…クリスマスプレゼントってことで…俺も協力しますよ」

 

イルカはカカシの言葉に嬉しそうに微笑むとゆっくりと雪の降り積もる地面に横たわる。

カカシは慎重に印を組み、イルカも異なった印を同時に組んだ。

タイミングを同じにして印を組み終わり、同時に術を発動する。

 

 

穢土転生!!

還魂憑依!!

 

 

発動後、イルカの姿がみるみる変化していく。

鴉の様な黒髪は太陽の様な金髪へ、漆黒の瞳は海の様な深い藍へ。

不思議そうに辺りを見回しながら起き上がった四代目は、見た事のある顔に目を留める。

 

「サクモ?いや、キミは…」

「お久しぶりです、先生」

「カカシ…くん?」

「はい」

「この身体は…僕はどうしてここに…」

「穢土転生です。ナルトに会って欲しくて、俺とその身体の持ち主でアナタを呼び出したんです」

「ナルト…あの子に会えるの?」

「その為に呼んだんですから…」

「…でも、会ってもいいのかな?」

「会いたくないんですか?」

「会いたい!…だけどあの子を置いて死んでしまった僕をあの子は許してくれるかな…

あの小さな身体に全ての責任を押し付けて死んでしまった僕を父と認めてくれるのかな…」

「大丈夫、あの子はきっとわかってくれますよ…ナルトはそういう子供です」

「だけど…」

「それよりも時間がないんです。その身体に居れるのは1時間だけ…

だから早くナルトのところに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルトが居る部屋の入口のところで四代目は立ち止まり、ただジッと眠っているナルトを見る。

 

「あれが僕の子供…大きくなったね、ナルト…」

「側に行かないんですか?」

「なんかドキドキしちゃって…ホント…僕によく似てる…」

 

と、ナルトが少し身じろぐと薄っすらと目を開けた。

元々眠る時は神経を張り巡らせて、いつ里の者が襲ってきてもいい様に構えているナルトだから…

知らない気配に目を覚ましてしまったのだろう。

ナルトはゆっくりと上体を起こし、気配の方向に目を向け…そして目を見開いた。

何か言おうとして、口が上手く動かないことに苛立ちながらスッと立ち上がると、

ナルトは四代目に手を伸ばし、美しい藍い瞳に大粒の涙を溜めながら一歩一歩前に進む。

 

「とう…さん…」

「ナルト…」

 

四代目もゆっくりとナルトに向かって歩みを進める。

 

「ナルト…ごめんね…」

「なんで謝るの?オレはこうやって会えただけで十分幸せだよ?」

「ナルト…」

 

四代目はその場にしゃがみ込むと、ナルトをギュッと自分の腕の中に抱き込んだ。

 

「夢みたいだ…自分の息子に<父さん>って呼んでもらえる日が来るなんて…

ナルトをこうして抱き締める事が出来るなんて…僕もとっても幸せだ」

「父さん…」

 

 

 

 

 

 

 

親子の時間を幸せそうに楽しむ二人を眩しそうにカカシは眺めていた。

そして数分後に訪れるであろう別れに心を痛めた…

会いたい人と会える喜びとその後に来る別れによる悲しみ…天秤にかけたらどちらが重いのだろう…

前者が重ければよし、後者であればこの後に続く別れは言葉には言い表せないほどに辛く悲しいものだろう。

願わくば、いっそ会わなければ…と思う事がありませんように。

そしてその時間は無情にも来てしまう。

 

「ナルト…そろそろお別れしなきゃいけないみたいだ」

「え…ずっと居てくれるんじゃないの?もうどこにも行かないで…父さん…オレを置いて行かないで!」

「無茶言わないの。大丈夫、またどこかできっと会えるから。それまでイイ子でいるんだよ?」

「……」

「返事は?」

「…はい」

「うん、よく出来ました」

 

四代目はニッコリと微笑みナルトの頭を撫で、そして名残惜しそうにギュッとナルトを強く抱き締める。

そして自分たちの様子をじっと辛そうな顔で見ているカカシに目を向ける。

 

「カカシくん、ありがとう。この身体の彼にもありがとうって伝えて?」

「はい」

「そんな辛そうな顔しないの。ナルトまで悲しくなっちゃうでしょ?」

「…すみません…」

「ったく…ナルトをこれからもよろしくねって彼にちゃんと伝えてね」

「はい」

 

カカシに柔らかく微笑むと、続いてナルトの顔を覗きこむ。

 

「ナルト、最後にパパに笑顔見せて?」

「…」

「ナ〜ルト、そんな顔でお父さんとお別れするの?」

「……」

「ナルト」

「またね…父さん」

 

ナルトは溢れる涙を腕でゴシゴシと擦ると、ゆっくりと顔を上げ微笑んだ。

そんなナルトをキツく抱き締めると、ナルトの耳元で愛しているよ…と呟き、

そのままナルトに倒れ込んだ。

その姿はみるみる変わっていき、現れた人物にナルトは目を見開くが、

すぐに泣き疲れたのかそのまま意識を失った。

それと入れ替わるようにイルカが起き上がる。

イルカは嬉しそうな、しかし辛そうな複雑な表情でカカシを振り返った。

 

「ずっと四代目の叫びや悲しみや喜びが伝わってきて、なんだか俺が四代目に…

ナルトの父親になったみたいで…」

「イルカ先生…」

 

優しくナルトの髪を指で梳きながら、イルカはクスリと笑う。

 

「ナルトが鍋を食べながら言いましたよね…なんか家族みたいだって…

僕が父親なら、差し詰めカカシ先生はナルトのお母さんですかね」

「俺はナルトの恋人希望ですから!」

「う〜ん、アナタにナルトはやれませんね…せめて俺を倒せるくらいになってもらわないと」

「無茶言わないで下さいよ…」

 

困ったなぁ…と後頭部をガシガシと掻くカカシに自然と笑みが零れる。

それにつられてカカシもニコリと微笑んだ。

 

「そういう笑い方、アナタにもできるんですね」

「…俺も知らなかったですよ…ナルトに会うまではね」

 

 

 

 

 

 

朝、目を覚ますとイルカとカカシが自分を挟むようにして眠っていた。

ナルトはそっとその間から抜け出し、机の上に置いてある巻物を手に取った。

昨日の事は夢だったのかと思ったが、どうやら現実だったらしいことをその巻物は告げていた。。

ナルトが起きた事に気付いたのか、イルカとカカシは揃って起き上がる。

ナルトは二人に向かって歩みを進める。

藍い瞳から溢れる雫に何事かとイルカたちは目を白黒させていた。

その二人に覆いかぶさるように抱きつき、ナルトは肩口に顔を埋める。

そんなナルトに二人は顔を見合わせ、そしてやんわりと微笑みながらナルトを抱き返した。

 

「イルカ先生…カカシ先生…ありがとう。父さんに会わせてくれて本当にありがとう」

「俺たちからのクリスマスプレゼントだ」

「ナ〜ルト、ほらいつまでも泣いてないでいつものナルトの可愛い笑顔見せて?」

 

ナルトはゆっくり顔を上げると父親に良く似た柔らかい笑みを浮かべた。

 

「メリークリスマス…だってばよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

壱万打御礼&Xmasフリー小説という事で書いてみました…

一応スレナルとスレイルカなんですが…あんまり見えませんね…

こんなもの貰って頂けるかどうかとても不安なのですが…

もし良ければ貰ってやって頂けると非常に嬉しいです。

お持ち帰り方法

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フリー期間:〜2006年年明け

フリー期間終了しました。

報告などは別に必要ありません。

ホントに壱万HITS有難う御座いました!!

 

I wish YOU...

A Merry Christmas & A Happy New Year!!

 

By ARKY