うぇ…ぐすっ…とう…さ…うぅ…なん…で…

 

任務からの帰り、声を殺して泣いている少年に白狐−ナルトは足を止めた。

砂隠れの里からほど近いこの森の中、大きな瓢箪を背負った子供が

膝を抱えて小さく丸まるようにして泣いていた。

ナルトはふと、里人に訳もわからず危害を加えられて泣いていた自分と

その子供が重なり、放っておく事が出来なかったのだ。

ナルトは面を外すとその子供に近付いた。

 

 

 

 

//泣かないで//

 

 

 

 

「だれ…?」

 

自分しか居ない筈のこの森、誰も来ないからこの場所を選んだ。

なのに自分に近付くモノがいる…それは自分に泣かないで、と言う。

伏せていた顔を上げた我愛羅の目に映ったのは長い金色の髪を

靡かせ、柔らかい笑みを浮かべる青年がだった。

そして彼の額宛は紛れもなく木ノ葉隠れの忍であることを示していた。

警戒の色を強めた瞳に、より一層笑みを深くすると、その青年はスルリと細い

腕を伸ばし、ビクリと肩を震わせた我愛羅に構うことなく頭を撫でた。

 

「何で泣いてるの?」

 

殆どされた事のない行為に戸惑いながらも、どこかこの人は自分の敵ではない、と

安心した我愛羅はおずおずと口を開いた。

 

「父上が…また……俺を殺そうと…うぅっ…」

 

青年は一瞬目を見開き、そして思い出してまた泣きそうになる我愛羅を

やんわりと抱き締めた。

 

「もう泣かないで…オレが守ってあげるから」

「?!……まも…る?」

「そう。オレがお前を守ってやる」

 

我愛羅の背中をポンポンと叩いてあやしつつそう言った青年は、泣き止んだ

我愛羅の顔を覗き込み、ニコリと美しい笑みを浮かべた。

そしてスッと音も無く立ち上がると、砂隠れの方角へ険しい顔で向かう。

と、

 

「待て!」

「ん?」

「どこへ行く?」

「お前の父上のところ」

「父上を……殺すのか?」

「そんなことしねぇよ。ただちょっと忠告〜」

「なんでそんなに俺に…俺なんかに」

 

クスッと笑うと青年は我愛羅に背を向け、ただの気まぐれだ…と恥ずかしそうに言った。

 

「…また会えるか?」

「会うことになるさ。オレたちは…仲間だからな…」

「仲間?」

「そのうちわかる」

「いつになったらわかる?」

「お前が強くなったらわかるさ。だから強くなれ…早く強くなってオレのところに来い」

「……わかった」

 

その青年は狐を模した面を付けると、そのまま振り向きもせず去って行った。

その後、父親である風影の執務室に何者かが侵入したとは聞いていない。

だが、それ以来俺は父に狙われる事が無くなった…

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数年…

俺はあの青年に会う為だけに強くなった。

そして今、木ノ葉潰し計画遂行の為、表向きは中忍試験ということで

木ノ葉隠れの里を訪ねていた。

いつまで経っても集合場所へ現れないカンクロウたちを探して来てみれば

奴らは木ノ葉の下忍どもと争っていた。

その中で、俺はカンクロウにいとも簡単に小石をぶつけた黒髪の少年に興味を持った。

 

「俺もお前に興味がある。…名は?」

「うちはサスケだ…」

「あのさ!あのさ!オレは?オレは?」

 

突然割って入ってきた声に心底嫌そうな目を向ける。

こういう煩い奴は嫌いだ。

しかし、その声の主を見て俺は文字通り固まった。

 

「あの…時の…?」

「どうした我愛羅?」

「いや、なんでもない…(こんな奴をあの時の青年と見間違えるなんてどうかしている…)

お前になど興味ない…行くぞ」

 

 

 

 

「興味ない…ね。言ってくれるじゃん…ま、オレでもそう言うけどな」

 

我愛羅たちを目で追いながら、ナルトはニヤリと笑っていた。

それに気付いた者は誰一人いないのだけど…

 

「早くオレに気付けよ、我愛羅…」