俺たちの目の前を楽しそうに通り過ぎていく親子…

彼らが通り過ぎていく間、ナルトはジッと睨み付ける様に見つめていた。

 

「何見てんだナルト?」

「ううん…なんでもないってば…」

 

ナルトは口の端を少し上げた。

無理矢理笑った事がすぐに分かってしまう…

人一倍自分を偽る事が巧い筈のナルトなのに、こういう時はとても不器用になる。

 

「ねえ、イルカ先生…」

「ん?どうしたナルト」

「……やっぱなんでもないってば…」

 

 

 

 

 

//手を繋ごう//

 

 

 

 

 

 

本当は俺はナルトが何を見ていたのか知っていた。

何をしたいのかも…

だけど俺は見てみないフリをし続けていた。

それをしなかったのは自分に自信がなかったからだ…

ナルトは俺のことをどう思っているのか不安だった。

ナルトが正体を知って尚、何故こうやって俺と一緒に居てくれるのか不思議だった。

 

「先生、今日先生の家に泊まりに行ってもいいってば?」

「今日は任務はないのか?」

「今日は満月だから…」

「そうか。それじゃ〜買い物して帰るか…ナルトは何が食べたい?」

「ん〜、寒くなってきたから鍋?一人じゃなかなか食うことないだろ?」

「そうだな〜じゃあまずは野菜だな」

「あ、ちょっと待って」

 

そう言ってナルトは建物と建物の隙間に入り込み素早く印を組む。

煙の中から現れたのは俺と同い年くらいの銀髪の青年。

 

「お待たせ」

「別にそのままでも良かっただろ?俺も居るんだし」

「だから余計に。先生にまで嫌な思いさせたくねぇし…」

「俺ってそんなに頼りないか?」

 

思わず口に出してしまった事に俺自身が驚く。

ナルトはカカシやシカマルたち同僚と買い物に行ったりする時は変化などしない事を知っている。

俺と居る時だけこうやって変化をするのだ。

それは信頼の差だと思った。

ナルト自身、俺が暗部でナルトの全てを知っていると知ったのは最近の話で。

実際、本当の姿で話が出来るようになってまだ間もない。

それでも今までアカデミーで培ってきた俺たちの関係はとても深いものだと思っていた。

一緒に過ごした時間だけは本物だと思いたかった。

だけど…全てを知った後のナルトは以前と変わってしまった。

隙間がどんどん広がっていく気がした。

 

「俺ってそんなに頼りないか?」

 

もう一度繰り返してみる。

自分で言っていて哀しくなってくる…

ナルトは顔を上げ俺の目をしっかりと見つめ、ゆっくりとその形の良い唇を開く。

 

「先生と居ると不思議な気持ちになるんだ」

「不思議な気持ち?」

「なんていうか…親子ってこんな感じかな〜家族ってこんな感じかな〜って」

「ナルト…」

「でもそれと同時にとても不安になる」

「……」

「先生がいつか父さんの様に居なくなってしまったら…オレ怖くて…イルカ先生を失うのが怖いんだ」

「俺を失うのが怖い…?」

「イルカ先生は…オレにとってはなくてはならない人だから。オレを孤独から救い出してくれた人だから…」

 

俺はナルトの言葉に眩暈がした。

俺の今までの不安など一瞬にして吹き飛んだ。

俺と同じ様にナルトもずっと不安だったんだ…俺が里人のナルトに対する仕打ちでどれだけ傷つくか知っているから。

ナルトは俺が不安に思っていることに気付いていたのかも知れない…

だからこそ余計に俺と一緒に居るときは過敏になってしまっていた。

なんて俺はバカだったんだろう…こんなにもナルトは俺のことを思っていてくれたのに…

俺は優しくナルトに微笑み、すっと手を差し伸べる。

 

「ん」

「何?」

「手」

「手?」

「ほら手ぇ出せ」

「え…」

 

俺は無理矢理ナルトの手を掴む。

最初は緊張していたナルトも、やんわりと手を絡めてきた。

その頬は赤く染まっていて、ナルトは恥ずかし気に俯く。

 

「先生…オレ今先生と同い年くらいなんだけど…」

「ん?」

「こんな歳のしかも男同士で手繋いで歩いてるのって、どうかと…さっきから視線が恥ずかしい…」

 

そういえばさっきからジロジロ見られている気がする…

最初はナルトの美貌の所為だと思ったが…勿論それもあるのだけど…

周囲の視線は俺たちの繋がれた手に確かに注がれている。

若い女性たちがキャーキャーと騒いでいる声が聞こえて、俺は文字通り固まった…

 

『キャーvvホモよ!BLよ〜〜〜v』

 

ハタと我に返った俺がナルトを路地に引き込み、変化を解かせたのは言うまでもない。