//24 Hours//○○の24時間

 

 

7:00 am....

 

俺が出来る事なんて…結局、思いついたのは禁忌の森の屋敷にある膨大な蔵書を漁る事だけ。

ここにはナルトがどこからか拝借してくる大量の書物がある。

流石の俺でも未だに読み切れないほどに。

それでも読み終えていない量は残り僅かであるが、その中に何かあるかもしれないと…

小さな可能性に掛けていた。

記録が消えてしまうことなんて普通に考えれば、ありえるわけがない。

幻術、記憶操作…なんとでも出来る。

必ずあの森には何か秘密がある筈なんだ!

俺は無我夢中で本を読み漁った。

たった一時間で数百冊の書物を一度に読み終えるほどに集中して。

 

 

 

 

 

しかし、その中には俺の求める情報は何一つ存在していなかった。

本当に消えてしまっているのか…そんな莫迦な考えを思い描く。

手に持っていた巻物から目を逸らし、窓の外を眺めれば眩しい光が部屋の中に差し込んでいた。

 

「任務か…ナルトは今日休みだ、ってあいつらに伝えねぇとな…」

 

一度ゆっくりと目を閉じると、巻物を床に置き、7班の任務地へ向かった。

 

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8:00 am....

 

どう伝えようか…火影岩の上で悩みぬいた末、やはり休みなことにしておこうと決めた。

瞬身ではなく、ノロノロと演習場までの道を歩く。

口から零れるのは深い溜息ばかり…

目に浮かぶのはナルトの笑顔、耳に残るのはナルトの声。

と、7班の集合場所に着いたところで、サクラが不思議そうに話し掛けてきた。

 

「どうしたの、シカマル?今日ってまさか合同任務なの?!

カカシ先生、また忘れてたわね…しゃーんなろっ!!」

「いやいやいや…( ̄Д ̄;;)今日は合同任務じゃねぇって…」

 

だったら何?と寧ろ独り言に近かった叫びを収め、俺に視線を送る。

 

「ナルトのことなんだけど…」

「ナルト?ナルトに何か用があるの?」

「いや、そうじゃなくて」

「何よ、ハッキリしないわねぇ…もしかしてナルトに告白とか言うんじゃないわよね?(笑)」

「なっ///なんでそうなるんだよ…っていうか、俺たち男同士だぞ?」

「別に男同士だっていいじゃない?」

「だぁっ…つーか、なんでそんな話になってんだよ…めんどくせー」

 

ケロリと何でもないことのように言うサクラに頭を振る。

そして本来の目的を思い出し、サクラの目をまっすぐ見た。

 

「そうじゃなくて、俺は今日ナルトが休みだって伝えようと…」

 

言葉は途中で切れた。

何故なら今数メートル先でサスケと騒いでいる人物は、自分のよく知る金色を持っていたから…

 

「ナルトが休み?ナルトなら来てるじゃない…」

 

不審気に呟くサクラの声は右から左へと流れていった。

ナルトが帰ってきた…

俺はサクラの呼び止める声も聞かず、ナルトの元へ走った。

 

「ナルト!!」

 

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9:00 am....

 

ありえない……そんなことありえない…あってはならないんだ…

 

シカマルの頭の中は珍しく混乱していた。

それは目の前にある現実を受け入れたくないからなのか…

 

 

 

 

 

「ナルト!!」

 

自分の名前を呼ばれて振り返った先には自分と同じ年頃の見知らぬ少年が立っていた。

どこか懐かしい感じもするが、その懐かしさが何処から来るのか考えようとすると

頭の中が真白な靄に包まれてしまう。

ナルトはとても不思議そうに首を傾げた。

 

「誰だってば?」

「…え………」

 

少年はそのまま何も話さなくなってしまった。

時が止まってしまったかのようにピクリとも動かず、ただ自分をジッと見つめているだけ。

居心地が悪い…

傍に居たサスケに助けを求めた。

 

「こいつ、誰だってば?サスケ、知ってるってば?」

「知ってるも何も…お前…シカマルがわかんねぇのか?」

 

質問を質問で返された。

サスケがサクラに視線を送ると、サクラは訳がわからないと首を振る。

訳がわからないのはオレの方だ…

見知らぬ少年に見つめられたまま、ナルトは面倒な事になった…とこっそり嘆息する。

見たところ下忍であるその少年に見える筈はないと思ったからだ。

 

「もう考えるのも面倒臭いってか…」

「なっ…」

「ホントに俺のこと、覚えてないんだな」

 

今度は少年がハァ…と深い息を吐き、背を向けたかと思うと

スタスタと無言で森の中へ歩いて行き、

ある一定の距離まで離れたところで下忍ではありえないスピードで姿を消した。

驚きに目を見開いたまま、ナルトはカカシが現れるまで一点を見つめ続けていた。

 

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10:00 am....

 

「何の用だ」

 

後ろを振り向きもせず投げられたクナイによってポンッという音と共にナルトが消える。

同時にもう一人のナルトが姿を現す。

 

「お前さぁ、一体何者?オレの影分身が追ってることも気付いちゃってるし」

「……」

 

無言のまま踵を返そうとする黒髪の少年の肩にナルトは手を回す。

一瞬何か懐かしい感じがして、慌てて腕を放して少年の前に移動した。

 

「誰だかわかんねぇヤツにそんな簡単に正体見せちまっていいのかよ」

 

今まで一度だってナルトに向けたことのない眼で睨みつける。

それに動じることなく、ナルトはニッコリと微笑む。

 

「それなら心配ねぇよ。お前は今この瞬間から、暗部に入隊するんだから」

「はっ」

 

くだらねぇ、とシカマルはナルトに構わず踵を返した。

 

「逃がしはしない。暗部に入るか、それともここで死ぬか…お前の運命は二つに一つだ」

「……」

 

自分の耳元から聞こえた声にハッと息を飲むと、両手を挙げてクルリと回れ右をする。

 

「てめぇにはやっぱ敵わねぇな……で、俺を暗部に入れるってか?」

 

急に開き直った少年を不思議に思いながらも、ナルトは手際よく契約の巻物を取り出し、

着々と準備を始めた。

くだらない…シカマルはジッとその光景を見つめていた。

 

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11:00 am....

 

思えば、契約の巻物を初めて見たあの日からどのくらいの年月が過ぎただろう…

まさかこんな状況が起こるなんて…

いくら自分の頭脳が優秀だとしてもはじき出すことは出来なかった未来。

こんなことでこの下らない状況が解決するとは思えないが、

契約の印が発動しなかった時のナルトの反応によっては、この状況を打開する方法が見えるかもしれない。

徐々に現状に慣れてきたのか、シカマルは落ち着きを取り戻し、明晰な頭脳も少しずつ活発化しているようだ。

早く、この後のナルトの反応を見たい。

印が発動しなかった時、ナルトはどんな顔をするだろうか。

どんな眼で俺のことを見るんだろうか。

 

「ククッ…」

「なんだ?」

「いや、なんでもない」

「変なヤツ」

 

これじゃ、まるで恋人にプレゼントをあげたらどんなに喜ぶだろうかと想像に胸を躍らせているバカな男みたいだ…

そう、思った。

恋と言うものがどんなものかはわからないけど、こういうのは悪くない。

今まではナルトに虐められて、それでもアイツについていってる俺は実はマゾなのかも、なんて思っていたけど、

現状を考えると、結構サドかもしれないな…

そう思ったら自然と笑みが漏れた。

 

「ホント、俺って変なヤツかもしれねぇ…」

 

ボソッと呟きながら、スラスラと整った文字を懐かしい巻物に書き込み、指をカリッと噛み、その血で拇印を押す。

何の説明をせずとも順調に流れていく儀式に、ナルトはますます首を傾げる。

その疑問は最後の最後で解けた。

最後の契約の印…何度組もうが一向に発動しない。

契約の印には大量のチャクラを消費する為、通常、一般の忍びでは使うことは出来ない。

しかし、自分はこの里の暗部を率いる総隊長なのだ。

つまり、チャクラ不足で発動しないなどというふざけた事態が起こる訳がない。

となれば…

 

「お前…ホントに何者なんだ…オレは暗部の長だぞ?そのオレが知らない暗部なんて存在する訳がない!

言え…お前は誰だ。一体何者だ」

 

そうきたか…

シカマルはやはり自分の思い通りにはいかない総隊長様に半ば呆れるように嘆息した。

自分が暗部であると知っても、ナルト自身に変化がなかった。

完全に抹消された記憶…

同じ暗部として、相棒として二人で潜り抜けてきた数々の戦いはナルトにとって大したことではなかったらしい。

その事実がチクチクとシカマルの胸を突き刺していた。