//24 Hours//○○の24時間

 

 

1:00 am....

 

「(ΦωΦ)フフフ…もうすぐだ……もうすぐ完成するよ…フフフ」

 

 

 

 

 

 

その同時刻…

木ノ葉の里から飛び出していく二つの黒い影−名を白狐<ビャッコ>、朱寂<スザク>と言う。

金色の長い髪を項辺りで結い、狐の面を被っている方が白狐。

漆黒の髪を揺らし、烏天狗の面を被っている方が朱寂。

共に里の守護神と名高き四神の一人だ。

 

「ターゲットまであとどのくらいだ?」

「俺の予測では既に近くまで来てる筈なんだが…」

「チッ…救援信号が出ていたのは確かにこの辺りに間違いないんだな?」

「ああ…俺の計算に狂いはねぇよ」

「だったら何で誰も居ねぇんだ!!」

「知るかよ!…この様子だともう死んでるかもしれねぇな…」

「縁起悪い事言ってんじゃねぇ…」

「へいへい。にしても、全く気配がねぇっていうのは厄介だな…ったく、めんどくせぇ」

「手分けして探すぞ!それと一応源武も呼んどけ、そろそろ帰ってくる筈だからな」

「りょーかい」

 

深夜、突然の救援要請が入った。

その詳細は一切不明…そして救援信号が出ていた場所へ到着したものの、

人も居ない…ましてや人が居た形跡すらなかった…

まるで狐に抓まれたような気分で二人は夜の森に融けていった。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

2:00 am...

 

「…一体皆どこへ消えたんだ…」

 

朱寂と別れてから既に三十分が経過していた。

探せども探せども何の痕跡も見つからず、白狐は焦っていた。

本来普通の人間に比べて五感が優れている筈の自分…にも拘らず助けを

求めた部下を探し当てる事が出来ない…

未だ嘗てこれほどまで自分が無力だと感じた事はない。

このまま探していても埒があかないと考えた白狐が、一先ず朱寂と合流しよう

と踵を返そうとした瞬間…

フワリと目の前に一人の男が気配もなく舞い降りた。

恐らく背後に立たれたらまったく気付けなかっただろう…

仮面の下で冷や汗が一滴流れていく。

 

「ククク…」

「お前は一体…」

 

 

 

 

 

 

うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

「白狐?!」

 

森の奥から聞こえた声は間違いなく白狐の声だった…

そんなまさか、と思いつつも胸中を不安がじわじわと満たしていく…

言い知れぬ不吉な予感に背中に冷たい汗が流れる。

朱寂は声が聞こえた方へ真っ直ぐ駆けて行った。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

3:00 am...

 

「…白狐!……白狐?……びゃ…ナルト!!どこだ…どこに居るんだ!

応えろよ!!…応えてくれよ…頼むから」

 

白狐の叫び声が聞こえた辺りに辿り付いた朱寂は木の枝に引っ掛かっている

狐を模した面を見つけた…しかし、そこに白狐の姿はなかった。

朱寂は込み上げる焦りと恐怖を振り払う様に我武者羅に周囲を探した…

それこそ木々に開いた穴の中でさえ。

途方に暮れ、カクンと膝の力が抜けたのかペタリと地面に座り込むと

白狐の身につけていた面を大事そうに撫でる。

既につけていた者の温もりは消え、無機質な冷たさが一層朱寂を追い詰める。

 

「俺がついていながら…何やってんだ、俺は!!」

 

自分に渇を入れると朱寂はIQ200の自分の頭脳をフル活動させ、

どうすれば白狐を見つけ出すことが出来るか考えた。

数十通りの中から最も確実な方法を一つだけ抜き出すと、

それを実行する為、火影邸へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「三代目!!起きて下さい、三代目!」

 

今が何時なのか…そんな事は関係なかった。

火影邸に侵入する事など造作なく、里の管理に不安を覚えつつも

三代目火影の眠る寝室に音も無く降り立つ。

朱寂はぐっすりと眠る三代目を必死に揺り起こした。

 

「なんじゃ…朱寂。何事だ…」

「白狐が………ナルトが何者かに連れ去られました…」

「…なん…じゃと……?!」

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

4:00 am...

 

「…一体何があったのじゃ…」

「それが…俺にも何がなんだか……」

「話してみなさい」

「三時間ほど前、救援信号が入って…俺とナルトで北の外れにある森へ救援に向かいました。

だけど…救援地点についても誰も居なくて…俺たちは二手に分かれて捜索することにしたんです。

そしたら、突然ナルトの悲鳴が聞こえて…クッ…」

 

三代目はナルトが身に着けていた白い狐の面をギュッと握り締めながら俯く朱寂の

頭をポンポンと叩いてやる。

 

「そう自分を責めるでない…しかし、北の外れの森とは…困ったのぉ」

「?…どういう、ことです?」

「あの森は特殊な結界に阻まれて、遠眼鏡でも見通すことが出来んのだ…」

「そ…んな…大体、特殊な結界って何なんです!!そんなもの俺が今すぐ取り払ってきます!」

「待ちなさい!」

「何故、止めるんですかっ?!」

「お主、神隠しの森…というのを聞いたことがあるかの?」

「神隠し…何をふざけた事を!今はそんな話…」

「あの北の外れの森は昔からそう呼ばれておってな…

過去、あの森では何人もの里人や忍たちが行方不明になっておる」

「しかし、そんな記述…里の歴史文献のどこにも…」

「消えてしまうんじゃよ…記しても記しても消えてしまう…そうしている内にその森のことを忘れてしまう」

「そ、んな…」

「従って、里の守人であるお主まで失うわけにはいかないんじゃよ」

「しかし!ならばナルトはどうするんですか!!」

「他の忍に行かせる。お主は帰って休むんじゃ」

「でも!!」

「朱寂、これは火影命令じゃ…わかってくれ」

「だけど…」

「シカマル、ここはワシに任せるんじゃ」

「…ハイ…」

「朱寂よ、あの森で行方不明になった者は皆帰って来る」

「?!」

「時期はバラバラじゃが…帰って来ておらぬ者は一人もおらん」

「でも、俺は…何年後とかじゃなくて、ナルトに今この場所に居て欲しいです」

 

悲痛な笑みを浮かべて消えた朱寂を見送り、三代目は数人の忍を呼び寄せた。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

5:00 am...

 

「クッ…」

「目が覚めましたか?」

「お前ら…」

 

目を覚ましたナルトの前には見覚えのある暗部たちが居た。

驚きに目を開きつつも、状況を判断しようと冷静に周囲を見回す。

いくつかの蝋燭がチロチロと燃え、暗い洞窟の中を照らしていた。

どうやら自分たち以外は誰も居ないようだ…

一息吐くと、暗部たちに目を向ける。

 

「救援信号を出したのはお前たちか?」

「はい」

「何者かに突然襲われ、気が付いたら自分たちもここに居たのです」

「アナタが運ばれて来た時には驚きました」

「運ばれて来た…?」

「え…あ…」

「お前たち、オレを運んで来た奴を見たんだな?そいつはどこに居る?答えろ!」

「落ち着いてください総隊長…おい、お前たち…総隊長を押さえろ!」

「な…」

「さぁ、これを飲んで下さい。落ち着きますから」

 

隊長格の男が怪しげな笑みを浮かべて、数人の暗部たちに取り押さえられたナルトの口元に

真青な液体をなみなみと注いだ杯を押し付ける。

ナルトが動じることなく強い殺気を放つと、うわぁ!と叫んで暗部たちは退いた。

 

「どういうつもりだ?!」

『……』

「あんまり虐めないであげてよ」

 

急に聞こえた声に、驚きの表情を隠すことなくナルトは声の主に振り向いた。

自分ですら気配を感じることの出来なかった声の主に恐怖すら覚えた。

 

「さぁ、飲んで?」

 

ナルトの殺気など感じていないかのように声の主はナルトの足元に転がっている杯を手に取り、

それに再び青い液体を注ぐとナルトの前に突き出す。

しかし…ナルトが口を開けることはなく、液体がナルトの顎を伝っていった。

 

「ショウガナイ子だねぇ…」

 

主はナルトの顎を細い指で捕えると、自分の口に含んだ液体をナルトの口に流し込んだ。

 

「?!……なに…し…」

 

コクンと音を立てて液体を飲み込んだナルトは、そのまま意識を手放した。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

6:00 am...

 

結局、家に帰っても眠れなくて…俺はただボーっと部屋の片隅で蹲っていた。

あんなにもムキになって何かを探したいと思ったことなど、

今まで一度だってなかった。

モノに対して執着心なんて欠片もない筈の自分…

それがナルトがいなくなったことでぐちゃぐちゃに掻き乱されている。

いつだって冷静だった筈だ。

誰よりも先の動きが読める自分だからこそ、すべてが自分の予想通りに動いていた。

でも、今回は違う。

こんなことはありえない…自分の力ではどうにもならないことが存在するなんて…

だからこんなにもイライラするのか?

こんなにも…胸がチクリチクリと痛むのか?

 

「クソッ…」

 

今夜何度目かの小さな呟き。

手をギュッと握り締め、その拳を畳に叩きつける。

自然と痛みは感じなかった。

ただ胸の奥がモヤモヤと…時折ジクジクと痛む。

目を閉じれば、目の前に浮かぶのはナルトの笑顔ばかり…

死んでしまったわけでもないのに、まだ会える可能性は充分あるというのに…

目の奥からジワジワと熱い液体が零れ落ちてくる。

 

「ナルト………ナルト…ナルトぉ…」

 

何度も名前を呼ぶ。

いつものように、何だよ?ってなんでもなさそうな顔で窓枠に腰掛けて笑うナルトはいない。

 

「ナルト…」

 

何度も名前を呼ぶうちにだんだんと胸の痛みの主がはっきりと見えてきた。

 

「俺は…」

 

その言葉を呟こうとして心の奥底に閉じ込めた。

よく考えろ…相手は男なんだ。

こんな感情はありえない…俺はどうかしている。

フルフルと頭を振り、暫し目を閉じた。

静かに意識を心の奥から外へと向けていく。

本当に何もないのか?…本当に俺が出来る事は何もないのか?

よく考えろ、考えるんだ!

ふぅ…と深く息を吐き出すと、シカマルはスッと目を開け、部屋から飛び出していった。