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忘れていた筈だ…いや、既に俺の中からは抹消していた筈の気持ち… あの英雄の滝で別れを告げたあの瞬間から俺の中で戒めとなった気持ち… たった一度再会しただけで蘇るなんて、 俺の決心はその程度のものだったのか?
「クソッ…」
消し去った筈の感情が俺を過去へと引き摺り戻す。 消し去った筈の感情が俺を支配していく。 頭の中を駆け巡るのはアイツの声と顔とアイツを守ったあの男…確かサイとか言ったか… アイツが俺の腕の中にあったことにひどく嫉妬していたあの男… 気になる…気になる…気になってしょうがない…
「ナルト…ナルトぉ…」
//BIRTHDAY 0723//
「何?アンタ、男が好きなわけ??そんな恋しそうな声出しちゃってさぁ〜」 「?!なん…だ…と…?」
誰もいない筈の部屋の中から聞こえた声… その声は更にありえないことに己の目の前から聞こえる。
「ありえない…ここは、音…だぞ?」
冷たい汗が静かに背中を流れ落ちる。 その音すら聞こえてきそうなほど静まり返った部屋に再びその声は木霊する。
「だから?この程度のレベルで本気で入れないと思ってんのか??」
立てた肩膝に乗せていた頭を恐る恐る持ち上げる。 細い身体…しなやかな筋肉を包む黒衣… この黒衣には見覚えがあった。 かつて兄が纏っているのを見たことがある…これは…
「木ノ葉の暗部…か」
やっとのことで顔を上げ相手の顔を見遣る。 着けられた面は白い狐の面…以前、四代目が着けていたと言われる伝説の面と同じ。 だが、その使用は十五年前から固く禁じられたと蛇が言っていた。
「フ…こんなヤツがまだあの里にはいたんだな…」 「…少なくとも、オレ以外に四人はいるぞ?」
狐の面が嘲りの表情を浮かべているように見えた。 お前より強いヤツなどいくらでもいる…と。 その程度のレベルでいい気になるな…と。
「ところで」 「………」 「アンタたちさぁ〜兄弟揃って同じヤツが好きなわけ?しかも男だし」 「なっ…」 「まったく…兄弟揃ってどうかしてるよ。よりにもよって狐が好きとはねぇ〜」 「ナルトは…」 「?」 「ナルトは狐じゃない!!アイツの中に確かに狐はいた… だが…アイツの中に狐がいるだけであって、アイツが狐になったわけじゃない!」 「……」
俺が突然上げた大声に驚いているのか、狐の面は一瞬戸惑った様子になったが、 すぐにふ〜ん、とやる気のない返答を返した。 と、狐面は少し考える素振りをした後、すぐに何を思いついたのか変化の印を組んだ。
ポンッ
煙の中から現れたのは金髪の少年。 言われなくても誰だか瞬間的に理解できる…
「貴様、何の真似だ…」
狐面が何を考えているのか、何をしに来たのか全く理解できず、 混乱が怒りを招く。 そんな俺を哂うと、狐面は懐から小さな包みを取り出すと俺の手元に放り投げた。 避けようかとも思ったが、自然と受け取っていた。 警戒する俺に、クスリと笑うと狐面はグイッと俺に顔を近づける。
「誕生日おめでとう」
面の奥から聞こえる声にハッと息を呑む。 それは紛れもなくナルトの声で… いくら変化しても真似る事の出来ないナルトの気配すらする。 恐る恐る伸ばした手で面を剥ぎ取ると、ナルトの笑顔がそこにあった。 少し色合いの違う眼、いつもの五月蝿い気配ではなく静かで落ち着いた気配… だが、それが単なる変化ではなくナルト本人である事がイヤでもわかる。
「ナルト…」 「あんまさぁ〜そんな声で呼ぶなよな…なんか照れるし」 「ナルト…ナルト…」
目の前のナルトを夢中で抱き締める。 腕の中の感触は間違いなく本物のナルト…
暫くナルトは俺の腕の中で大人しく抱かれていたが、 何かに反応するように腕の中からスルリと抜け出した。
「やべぇ、呼び出しだ。オレがあまりにも帰ってこないから心配してんのかぁ?」 「……もう、行くのか?」 「おう!元気でな〜サスケ」 「ホントにナルトなんだよな…」 「さぁねぇ?」 「……」 「冗談冗談。んじゃ、それ大事にしろよ」
俺の手の中にある小さな箱を指差しニコリと笑う。 ああ、と小さく返事をすると満足したようにクルリと踵を返す。 と、思い出したように手をポンと叩き立ち止まると、一瞬にして目の前まで移動する。 一瞬触れた暖かい唇…
「とりあえず、兄貴より一歩リードだな」
クスッと笑うとナルトは姿を消した。 暫くの間、俺はその場を動けず、ただナルトが触れた唇に触れながら惚けている事しかできなかった。
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