一週間前

 

「今年の誕生日は一人か…木ノ葉丸…会いたいのぉ…」

 

裏木葉にある裏火影邸…

先の大蛇丸による木ノ葉崩しによって死んだ事になっている三代目火影は、

今はこの裏木葉で暮らしていた。

悪夢のような執務から逃れ、念願の旅行も思う存分楽しんでいる…

一見幸せそうなこの老人は家族に会えない辛さから、少し元気をなくしていた。

時に、耐え切れなくなり子供たちや孫に会いに行く事はあるが、

所詮他人としてであり、昔のように楽しく会話をしたり、何かを買ってやったりなどは

当然出来る訳も無く…

ハァ…と大きく息を吐き出すと、三代目は毎年必ず孫たちが祝ってくれた

楽しい誕生日を思い出していた。

 

 

 

 

 

「ったく、しょうがねぇな…一週間で間に合うかなぁ?」

 

悲嘆に暮れる老人を不憫に思ったナルトは、三代目の為にあることを思いつき、

すぐさまエビスの元へ向かった。

 

「エビス先生、ちょっとお願いがあるんだけど…」

 

 

 

 

//BIRTHDAY 0208//

 

 

 

 

二月八日 三代目誕生日当日

ナルトに裏木葉の執務室で待つように言われた三代目は、

しぶしぶ執務室の椅子に座っていた。

その顔には明らかに不満の表情が見て取れる。

 

「誕生日だというのに…祝ってくれるどころか、仕事とはな…」

 

新しい暗部が入隊する為、多忙の綱手に代わって入隊式に参加して欲しい…

そう言われたのは昨日。

誕生日パーチーでもしてくれると思い、ウキウキ気分でナルトを訪ねたのも束の間、

一瞬にして暗い気持ちになった。

木ノ葉丸に祝ってもらう事は出来なくとも、第二の孫であるナルトは自分の誕生日を

祝ってくれるだろう…そう期待したのが悪かったのか?

そもそも誕生日という事すら覚えていてはくれないのか…

この歳になって誕生日祝いも何もないが…それでもこの仕打ちはあんまりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、執務室の扉をコンコンと叩く音がし、狐の面をつけた白狐が現れた。

 

「珍しいのぉ、扉から入ってくるなど。どういう風の吹き回しじゃ?」

 

少し皮肉を込めて言ってやるが、白狐はそれに対してクスリと笑っただけだった。

 

「偶には扉からも入ってきますよ。新人に変な事を教えるなといつも言ってるのは

三代目でしょ?」

「フン…して、新人の暗部はどうした?」

「ああ、そうだった。オイ、何してんだ?さっさと入れ」

「ハイ」

 

猿の面を付けた二十歳くらいの短い黒髪の青年が扉の向こうから顔を出す。

が、その場所から一向に動こうとしない…

視線はただ三代目に注がれている。

三代目は自分が生きている事を知らされていなかった為、驚いているのだろうと

ニッコリと微笑み、入るように手招きする。

 

「恐れる事は無い。入るがよい」

「別に取って喰われる訳じゃねぇんだ。さっさと入れ。それとも暗部にはなりたくないか?」

「い…いえ」

 

ゆっくりと執務室に足を踏み入れると、白狐に導かれて三代目の前までやってくる。

 

「まだ若いのぉ」

「こいつは若いが優秀ですよ。何せオレ直々に発掘してきたんでね」

「お前がのぉ…四神以来か…里には優秀な忍がちゃくちゃくと増えておるようじゃの?

さて、では契約を始めるかの」

 

三代目は単なる見届け人、総隊長である白狐とその青年の間で取り交わされる

契約を見届けた後、その青年の腕に暗部としての証を刻んだ。

白狐が命名した暗部名は猿魔<エンマ>。

奇しくも三代目が口寄せの契約を結ぶ猿猴王・猿魔と同じ名前に、

三代目はどこか親しみを持った。

 

「それでは三代目…この後、火影岩にて猿魔の入隊祝いの宴を行います故、

三代目も準備が済みましたら直ちにおいで下さい」

「入隊祝いの宴か……わかった」

 

落胆が色濃く現れた三代目の表情に困惑しながらも、白狐と猿魔はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後…

三代目はとぼとぼと火影岩までの道のりを歩いていた。

その肩は沈み、表情は暗く…これから祝いの席へ出るというのに、

皆の騒ぐ声が近付けば近付くほど三代目の周囲には重苦しい空気が漂っていった。

宴の明かりにもうすぐ辿り付こうという時、三代目の前に降り立つ者がいた。

 

「久しいな、三代目よ」

「?」

「なんだ、わからんのか?平和ボケでそこまでボケたか…」

「猿猴王・猿魔…何故、お主が此処に…」

「じじい、いい歳して拗ねるなんて…まるでガキみたいだな、コレ」

「なん…じゃと…儂は拗ねてなど…おらんわ…」

 

猿猴王の後ろから現れたのは、先ほど暗部として契約したばかりの猿の面を

つけた青年が立っていた。

 

「解!」

 

ポフンという音と共に現れたのは小さな子供。

その子供は猿の面を惜しげもなく取り払った。

 

「…まさか…木ノ葉丸か…」

「自分の孫の顔も忘れたか、コレ」

「忘れる筈も無い…お主にどれほど会いたかったか…」

 

そう言いながら、白狐の方を見遣る。

 

「礼ならオレではなく、三代目に会う為に辛い修行に耐えた木ノ葉丸に

言ってやってください」

「……そうか…儂の為に…しかし何故…」

「今日は三代目の誕生日でしょう?」

「覚えていてくれたのか…白狐」

「当然ですよ。な、木ノ葉丸」

「ハイ、先生!!」

「?…先生??」

「白狐先生は俺に修行をつけてくれたんだ、コレ!暗部になればじじいに会えるって。

まさかこうして生きてるとは思わなかったけどな、コレ」

「……すまぬ…」

「なんで謝るんだ、コレ!!俺は生きててくれてメチャクチャ嬉しいんだぞ!」

 

木ノ葉丸の目からは大粒の涙が零れていた。

グシグシと腕で必死に目を擦る姿は紛れも無く幼い子供で…

三代目はゆっくりと木ノ葉丸に近付き抱き締めてやる。

 

「そうか…そうか…」

 

三代目の目にも薄っすらと涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜感動の再会のところ悪いんだけど…めんどくせぇが宴を始めたいんで席について下さい」

「そうじゃった、そうじゃった。今日は目出度いお主の入隊祝いじゃったの」

「何言ってんだ?あれが見えないのか、コレ?」

 

三代目は木ノ葉丸が指差す方向に目をやる。

そこには…

 

--三代目、誕生日おめでとう!!--

 

と書かれた横断幕が掲げられていた。

急いで作ったのか所々インクが垂れているのは心なしかホラーだが…

中心には大きな円形のバースデーケーキが置かれ、色とりどりの蝋燭が立てられていた。

少しだけ、ありえない形の物も乗っていたが…それは気にしないことにして…

促されるままに三代目は誕生日席に座った。

さっきまでの不満な表情などどこへやら…三代目は満面の笑みに包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで木ノ葉丸よ」

「なんだ、コレ?」

「お主、白狐から何も聞かされておらんのか?」

「先生から?何をだ、コレ」

「白狐の正体とか…正体とか、正体とか…」

「白狐先生の正体?」

「ナルトの奴め…一体何を考えておるのじゃ…」

「なんでそこでナルトの兄ちゃんが出てくるんだ、コレ?確かにナルトの兄ちゃんは暗部だけど…」

「白狐の髪の色を見ても何も気付かんのか?」

「…先生の髪の色?………え…えええええええええええええええ!!

……全然気付かなかったぞ、コレ…ナルト兄ちゃんが白狐なのか?!」

「ったくぅ…じいちゃん、オレらの楽しみ取るなよな〜」

 

後ろから聞こえた声に振り返ってみれば、面を外した四神たちがずらりと並んでいた。

声を発した主は長い金髪を靡かせ、金色の珠が耳に揺れている。

その頬には見覚えのある…

 

「ヒゲ……」

 

--やっぱり、あれはヒゲなのか…?ヒゲと表現してもいいものなんだな?←暗部たちの内の囁き。

 

「それになんか…心なしか他の三人も見覚えが有る気が…」

『さて、俺(私)たちは一体誰でしょう?』

「え゙…」

「これ答えられるまで、今夜は私たちに付き合ってもらうわよvv」

「これ、お主たち!木ノ葉丸はまだ子供じゃぞ!!酒を飲ますなど以ての外じゃ!」

「そんな年寄りみたいな事言わないでよ〜僕たちもうこの頃には飲んでたよ〜?」

「お主たちと一緒にするでないわ!どうせ儂は年寄りじゃ!!」

「また拗ねるんですか…?ったく、めんどくせぇ」

 

大きく嘆息し、隣に立っているナルトの肩に腕を置いて凭れ掛かる。

ナルトはクスリと微笑み、木ノ葉丸に言った。

 

「いっつもこれで困ってんだよ。マジでどうにかしてくれ、木ノ葉丸〜

っつーか、これからじいちゃんの世話はお前に任せた」

「え…俺?だって任務は…」

「まだお前は任務に出すには危ねぇからな…せいぜいじいちゃんに鍛えてもらえ(*´∇`*)

じいちゃんを倒したら任務に出させてやるよ」

「ナルト兄ちゃん……ありがとう…///」

 

木ノ葉丸はとても嬉しそうに微笑み、その横で三代目もニッコリと幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

一週間前−火影岩

 

「もうすぐじじいの誕生日か…今年はいないんだな…グスッ…」

「三代目に会いたいか?」

「誰?」

「会わせてやれない事も無いぞ?ただお前が一週間で暗部になれたらの話だがな」

「俺はじじいに会いたい!会ってじじいと戦って勝ちたいんだ、コレ!!

その為なら俺はなんだってやってやる!」

「そうか…それならオレがお前を鍛えてやるよ…じいちゃんの為にもな…」