「ヒル魔くん…今週の日曜日アメフトの試合に行かない?」

「あぁ?今度は何企んでるんだ糞マネ」

「何も企んでません!それにそんな名前でもありません!!もぅっ…」

 

今まで何度同じ事を繰り返したか…

指折り数えてみて、まもりはハァ…、と息を一つ吐き出す。

相変わらず悪魔はPCに向かっている。

 

--何で恋愛ってこんなに面倒くさいのかしら…

 

「朝練の後だ」

「えっ?!」

 

突然忘れられていると思った人物から話し掛けられ、驚いてその人物の方を向くと相変わらずPCに向かったままだ。

一瞬気のせいかと思ったが、そうではなかったらしい。

PCから徐に顔を上げ、不思議そうな顔をして見つめるまもりにもう一度はっきりと言ったのだ。

 

「朝練の後だ」

 

まもりは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当日…

まもりの期待は見事に裏切られるのである。

 

 

 

 

 

 

//面倒くせぇ…//

 

 

 

 

 

 

 

 

わかっていたはずだ…アメフトを前にした彼がどんな人間か…

 

 

 

 

朝練終了後、ルンルン気分で着替えに行こうとしたまもりの耳に衝撃の言葉が聞こえた。

 

「おいお前ら、今日はこの前から言ってた様にCLASH BALLを観に行く。

置いて行かれたくなければ、さっさと準備しやがれ!!」

『うす!(フゴ!!)』

 

元気に返事をした部員たちが、半ば脅されるように部室に駆け込んでいく。

放心状態のまもりに悪魔は止めを刺した。

 

「おい、何やってんだ。てめぇが言い出したんだろ?

てめぇもやっとマネージャーとしての役目を自覚しやがったか、感心感心」

 

--ちっがぁぁぁぁぁぁぁう〜!!ウゥ・・・(泣)

--そうよね…二人きりな訳ないわよね…( ┰_┰) シクシク

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで部員全員で試合会場に向かう事となった。

電車の中は思ったより空いていたので、それぞれが思い思いの席を確保して談笑し始めた。

まもりもせめて少しでもヒル魔のそばに居ようということで、ちゃっかりヒル魔の横の席に陣取った。

そして今、狭い座席から少しでも寛ぎを得ようと伸ばされたヒル魔の腕は、まもりの後頭部付近にある。

 

--なんだかこれって…ヒル魔くんの腕の中に居るみたい…('-'*)キャー!!

 

たったそれだけの事、されどそんな小さな事がまもりは嬉しかった。

熱が上がって赤くなっているであろう頬に手を当てて、まもりはこっそり微笑んだ。

楽しい電車の時間もすぐに終わり、試合会場に到着した。

 

 

 

会場でもまもりはしっかりヒル魔の隣を確保した。

 

--ちょっと呼んでくれたセナには悪い事したけど、セナには鈴音ちゃんがいるから大丈夫ね。

 

と、小さなカップルに微笑を浮かべつつ試合の開始を待つ。

試合中、ヒル魔はいつもの様に自分に対して試合の流れを説明してくれたり、メモを取れだの指示をした。

そういう姿は大人びて見えるけど、時折無邪気にはしゃぐ姿はやっぱり高校生だなぁ…などと思いながらまも

りはヒル魔の顔をまじまじと眺めてしまった。

切れ長の目、尖った耳、高い鼻、薄い唇、整った顎のライン…見れば見るほどやはりカッコイイ。

どのくらい見つめていたのだろう…

 

「見惚れてんじゃねぇよ…」

 

気が付くと目の前には呆れたヒル魔の顔。

一気に体温が上昇し、まもりは真っ赤になる。

そのまもりに更に呆れ顔になったヒル魔は大きな溜息を吐いた。

 

「ったく…おら、試合見ろ、試合!てめぇが行こうっつったんじゃねぇか」

 

その言葉に本来の目的を思い出し、不意に悲しくなったまもりは俯いてしまう。

 

「行こうとは言ったけど…」

「けど、なんだよ?」

 

不思議に思い続きを促すが、まもりは何も言おうとしない。

そのまま黙り込んでしまった為、ヒル魔はあきらめて試合に集中することにした。

 

 

 

 

 

結局、まもりは残りの試合中ずっと俯いたままだった。

試合終了後、まもりを気遣う部員たちを返し、ヒル魔とまもりだけがその場に残った。

 

「おい!」

「…」

「ったく、何なんだよ…何がしてぇんだてめぇは?!」

「………」

「自分で誘っておいて試合も観もしねぇ…」

「…だって」

「だって何だよ」

「だって…ヒック……だってぇ…」

 

急に泣き出したまもりをどうすることも出来ず、しかし通り過ぎていく奴らの視線がウザい為、

ヒル魔はまもりの手を握り、会場裏の公園まで引きずって行った。

まもりをベンチに座らせ、自分も隣に座るが、何をする訳でもなく空を見上げた。

 

--普通…そこらの女ならこういう時は抱き締めて、頭を一撫でしてやれば泣き止むが…

--こいつにそれをやるとうるせぇよなぁ…多分(-_-;)

--てか、大体何でオレがこんな目に遭わなきゃならねぇんだ…いっその事、ほっといて帰るか?

--でも、そんなことしたらあいつらうるせぇしなぁ…あぁ、面倒くせぇ…

 

ヒル魔の心の中は複雑だ。

 

「おい」

「…」

「…」

「………」

「…いい加減泣き止めよ。オレが何したって言うんだよ!新手の仕返しか?」

「ヒック……グス…ヒル魔くんのバカ」

「あぁ?!何でオレがバカなんだよ?!!あ〜ぁ、これだから女は面倒くせぇ」

「…(怒)」

 

その言葉でまもりはプチッと切れた。

 

「メンドクサイィ?!私に言わせればヒル魔くんの方が面倒臭いわよ!少しは人の気持ちも理解しなさいよ!!

今はアメフトしか眼中にないのはわかってるけど、もうちょっと周りを見てよ」

「はぁ?」

「何ではっきり言わないとわかんないのよ!!私はヒル魔くんと二人で行きたかったの!!!!」

「オレと二人?別にセナとでも行けばいいじゃねぇかよ」

「だから私はヒル魔くんと行きたかったって言ってるじゃない!」

「何でオレなんだよ…」

 

訳のわからなくなったヒル魔は頭を抱える。

 

--やっぱりこの女は理解できねぇ…一体何がやりてぇんだ?!

 

「そんなの…グス……」

 

やっと泣き止んだと思った所なのに、まもりが再び泣き出しそうになり、慌てて先を促す。

 

「そんなの?」

「ヒック……そんなのヒル魔くんが好きだからに決まってるじゃない…」

 

その言葉にヒル魔は一瞬目を見開いたものの、すぐにいつものポーカーフェイスに戻り小さく嘆息する。

 

「(ノ_-;)ハァ…やっぱりてめぇは面倒くせぇ…」

「何よ」

「オレは今はアメフトにしか興味がねぇ」

「知ってるわよ…」

「クリスマスボールが終わってからだ」

「へ…?」

「終わったら考えてやらねぇこともねぇ」

 

そう言ってヒル魔はいつもの意地悪な笑みを浮かべた。

泣きべそをかいていたまもりに一瞬にしていつもの明るさが戻ってくる。

 

「もぉ…考えてくれるのかくれないのかどっちよ…」

「帰るぞ」

「ちょっと聞いてるの?」

「ったく…急に元気になりやがって。そんなにオレの事が好きなのかよ?(ニヤニヤ)」

「そうよ、悪い?」

「……あぁ…マジ面倒くせぇ」

 

ヒル魔はからかうつもりで言ったのだが…

今回の戦いはまもりの勝利ということで。

 

「だぁ…わかったわかった(投げやり)…終わったらちゃんと考えてやる。ま、それまで好きでいられたらな( ̄ー ̄)ニヤリ」

「いるわよ。そう簡単にはあきらめませんからねぇ〜」

「やだやだ、しつこいと嫌われマスワヨ〜」

「余計なお世話ですよ〜だ」

「開き直りやがった…やだねぇしつこい糞マネは」

「ヒル魔くんみたいな陰険な人に言われたくありません!」

「けっ」

「ふんっ」

……………………・…延々と続く……………………………

 

世の中は平和だ。