彼がいつも乗るバスはチェックしたわ。

後は私が一歩踏み出すだけ。

 

「いってきま〜す」

 

今日から私はバス通学することに決めた。

今までは電車だったんだけど、それも今日で終わり。

私はここから新しい一歩を踏み出すの。

 

 

 

 

//恋するBUS停//

 

 

 

 

「なんでてめぇがこのバスに乗ってやがる」

「別にいいでしょ、バスに乗ったって。ヒル魔くんにとやかく言われることじゃないわ」

「ふん、勝手にしろ」

 

--そんなこと言ってられるのも今のうちよ。近いうちにそんな事も言えなくなるほど、ギャフンと言わせてやるんだから。

 

それにしても電車と違ってバスはよく揺れる…曲がったりもするから、結構大変なものね。

ちょっと揺れると遠心力で飛ばされそうになる…そんな私の姿を見る彼の面白そうな表情が悔しい…

なんでヒル魔くんはあんな平然と立っていられるんだろう?

フッと気を抜いた途端、バスの運転手が急ブレーキを踏んだ。

私は前のめりに倒れそうになる…もうだめだ!と思った私の腰にかかる手…

この細くて長い指には見覚えがある。

 

「ヒル魔…くん?」

「ったく…危なっかしいんだよ、てめぇは」

 

悪態を付きながらも明らかに安堵しましたという表情に自然と笑みがこぼれる。

 

「なんだよ…」

「ヒル魔くんってやっぱり優しいよね」

「フン…糞マネが怪我したら、あいつらがうるせぇし、雑用係がいねぇと困るからな」

「素直じゃないのね」

「…てめぇ、なんで急にバス通学にした?確か前は電車通学だっただろ?」

「…それは…」

 

どうしよう…言っちゃおうかなぁ?

でもまだ言うには早いよね…もうちょっとだけ、こういう雰囲気も味わっておきたいもん。

 

「それは…安いから」

「ふ〜ん」

 

あぁ…理由浮かばなくて、適当な事言っちゃった…でもヒル魔くんどうでもよさそうだし、大丈夫よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

ったく…あの女は全然理解できねぇ。

パソコンの画面に映し出された、姉崎まもりのデータ。

住所を確認して、最寄駅からの料金を計算する。

あの女…ホントは馬鹿なんじゃねぇか?

 

「おはよ、ヒル魔くん」

「おい、お前一体どういう計算したら電車よりバスの方が安くなったんだ」

 

そう言って、俺は小さな紙切れを出す。

まもりの家から学校に来る方法は何通りかある。

その全てにおける交通費を計算したメモだ。

俺の計算に間違いはない…が、それを見てこの女はニッコリ微笑み、即座に否定しやがった。

 

「ヒル魔くん、これ間違ってるわ」

「ああ?!」

「ちょっと貸して」

 

ペンを取り出したまもりはスラスラと文字を記していく。

一体俺の計算のどこが間違ってるって言うんだ。

最寄駅もちゃんと調べたし…

はい、と出された紙を見て俺は唖然とした。

 

「…なんだこれは…てめぇ俺を馬鹿にしてんのか?」

「簡単でしょ?」

「…」

 

やっぱりこの女は俺には理解できねぇ。

バスの計算式の隣には<マイナスヒル魔>と書いてあった。

 

「わからない?」

「これをお前意外にわかる奴がいるなら、教えて欲しいぜ」

「つまり、このバスにはヒル魔くんが乗ってるでしょ?

それを差し引けば、私にとってはヒル魔くんが乗ってない電車より断然安いの」

「///……恥ずかしい奴…こんな公衆の面前で告白かよ」

 

そう呟きながら恥ずかしそうに顔を背けるヒル魔をまもりはまじまじと見つめる。

 

「こんなヒル魔くんなかなか見られないわね」

 

満足そうに呟き、まもりは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。