「あぁ〜なんか楽しかったなぁ…三年間」

「アンタは特に最後の二年間でしょ?」

「そうね…」

「そりゃそうよ〜なんたってまもりは大好きな彼とずーっと一緒にいられたんだもんねぇ〜」

「ね〜」

「ちょっ…///あっ!待ちなさ〜い!!」

 

顔を見合わせて笑いながら走っていく友人たちを追いながら、まもりはアメフト部での二年間を思い出していた。

 

 

 

//卒業式//

 

 

 

 

クリスマスボウルを終え、楽しい部活もこれで終わりかと思っていたまもりだが、

三年になってからもちょくちょく顔を出していた。

それは勿論同じ様に三年になっても、コーチだ!と言って顔を出す彼に会う為なのだが…

部活を辞めればプッツリと切れると思っていたアメフト部との繋がりは思っていたより太かったらしい。

あのクリスマスボウルを勝ち取ったチームなのだから至極当然なのかもしれない。

偶に三年の元部員たちも誘って焼肉に行ったり、試合観戦にも行った。

とても…とても楽しかった…何よりも彼と一緒にいられたことが嬉しかった。

この気持ちを伝えようと何度も迷い、何度押し込めたことだろう…

彼はアメフトだけだったから、この気持ちを受け取ってもらえないと解っていたからこそ言い出せなかった。

そして今日は卒業式…最後のチャンス。

 

 

 

 

 

卒業式が終わると、私は真っ直ぐ慣れ親しんだ部室に足を向ける。

あなたのいる場所なんてすぐに分かるわ…ほら、やっぱりここに居た。

 

 

 

 

 

部室の周りには満開の桜がヒラヒラと散っていた。

その中に立つ彼は、正に自分が求めていた彼で…

まもりはゆっくりと唾を呑み込み、彼の名前を呼ぶ。

 

「ヒル魔くん」

「何だ?てめぇも此処に来たのか、糞マネ」

「もう、マネージャーじゃないわよ…」

 

振り向きもしないヒル魔に分からないように嘆息し、静かに彼の隣に立つ。

 

「ヒル魔くんを探してたの」

「ああ?!」

 

やっとこっち向いてくれた、とまもりは嬉しそうに微笑む。

 

「ヒル魔くん、私ね…ヒル魔くんが好きよ」

「な…」

「ずーっとね、これが言えなくて…今やっと言えた」

「…」

「それだけだから…」

 

驚いたように目を見開くヒル魔にクスリと笑い、踵を返して去ろうとする。

そのまもりの腕をいとも簡単に掴んだヒル魔は、呆れたように嘆息する。

 

「待てよ」

「?!」

 

腕を掴まれたまもりは立ち止まりゆっくりと振り返る。

彼の眼は変わらず部室に向いていて…でも、その顔には明らかにいつもの様な笑いが張り付いているのが分かる。

 

「何よ?」

 

掴まれた部分が熱くて、逃れようとまもりは腕を引くがヒル魔はびくともしない。

 

「遅ぇんだよ」

「え?」

「何だって卒業式なんだ…」

「だって…ヒル魔くん、アメフトばっかりだから…」

 

自分の声が震えているのが分かる。

彼の言葉の意味が解るから…嬉しくて?

 

「ったく…糞アマが…」

 

地面に次々と零れ落ちる雫を優しく掬い取り、ヒル魔はまもりを抱き寄せる。

 

「いつまで待たせりゃ、気が済むんだよ…」

「ヒル魔…くん…」

「ったく、一度しか言わねぇぞ…」

 

 

「          」

 

 

「だから泣くんじゃねぇよ!あいつらが来たら俺が文句言われるだろ…」

「だって…だってぇ…」

 

舞い散る桜の花弁が運んできた小さな幸せ…