夕焼けに照らされ真っ赤に染まった教室……全てのはじまりの場所だ。
Prophetic Dreams:第壱夜*はじまりの夢
机に伏せて眠る四月一日の髪が赤く染まる頃… その髪に触れ、優しく梳いてくれる手に最初は気持ちよさ気に眠っていた四月一日は ふいに、そのありえない手に疑問を感じ、ハッと顔を上げた。 目の前でニッコリと微笑んでいたのは長い黒髪を二つにまとめた可愛らしい少女。
「ひまわり…ちゃん…?」
好きな子に触れられていた喜びよりも、不思議さの方が勝る。 いつもならその逆の筈なのに…その時は彼女の行動をとても不可思議に思った。 理由を問うような四月一日の瞳に気付き、ひまわりはクスリと微笑を漏らす。
「ごめん、なんか四月一日君がすごくキレイだったから」 「え゙…え゙ぇーーーーーーーー!!そ、そんなっ、ひまわりちゃんの方がずっとキレイだよ!」 「お前の方がずっと可愛い…誰よりも一番、お前がいい」 「は?!」
いつの間にか、目の前にいた筈のひまわりの姿はなくなっていた。 代わりにそこに居たのは…この世で一番嫌いなあの男…
「百目鬼!てめぇ、よくも俺とひまわりちゃんの逢瀬を邪魔しやがってぇぇえぇぇぇぇ!! 俺のひまわりちゃんをどこにやった、こんちくしょーーーーーーー!」
ハァ…と嘆息すると百目鬼はグイッと顔を四月一日に近づける。
「好きだ、四月一日」 「………」
点、点、点…何の前触れもなく、いや・・・一応前触れはあったような… とにかく突拍子もないことを言うこの男は一体何なんだ… 四月一日の頭の中は一瞬にして真白になる。
「俺、耳おかしくなったか?ハハハ…気のせいだよな… にしても、幻聴まで聞こえるようになったらおしまいだよな…ハハ…ハ…って、え…ちょ…まっ」 「待たない」
四月一日の薄い唇を覆い隠すように重ねられた唇から、百目鬼の体温が流れ込む。 僅かに震えているような気がしたが、百目鬼がそんなに初心な訳がないと思い直す余裕はあった。 それでも信じられない状況に頭は混乱するばかり… そもそも男が男にキスするなんて、これが夢なら早く醒めてくれ!! 目をギュッと閉じて、もう一度開ける。 そこには百目鬼はいない。 額にびっしりとかいた汗を、窓から吹き込む風が冷やしていく。 ホッと夢であった事に安心の息が漏れる。 と、
「おい」 「?!」
びっくぅぅぅ!! 音が聞こえそうなほどハッキリと肩を揺らした四月一日を不思議そうに見遣りながら、 百目鬼はもう一度四月一日を呼んだ。
「おい、四月一日」 「な、なんだよ…お、お前まだいたのかよ…」 「部活の帰りに教室の前通り掛ったら、お前がグースカ寝てた」
自分を見ようとしない四月一日の顔を覗きこむと一瞬でそらされた。
「帰るぞ」
様子がおかしい四月一日などお構い無しに、百目鬼は二人分のカバンを持つと教室を出て行った。
「お、おい待てよ!なんでてめぇなんかと一緒に帰んなきゃなんねぇんだよ!!おいっっ」
「なんで俺、こいつと一緒に帰ってんだよ…ブツブツ」 「なんだ」 「なんでもねぇよ!」
結局、暗くなった夜道を一人で帰る勇気もなく、四月一日は百目鬼と一緒に帰ることにしたものの 頭の中では夢の中の光景がグルグルと這いずり回っていた。
「なぁ…」 「なんだ」 「やっぱ、なんでもねぇ」 「? 頭に虫でも湧いたか?」 「湧かねぇよ!!」
だぁあああああ、なんでこんなヤツを妙に意識しなきゃなんねぇんだよ!! 気にしなきゃいいんだ…あれは夢なんだから…つってもなんであんな夢見たんだろ… 途中まではよかったのになぁ〜あぁ、ひまわりちゃ〜〜んvv うおぉ〜思い出したらムカついてきた!! 大体、欲求不満にしてもなんにしてもなんで男とキスしなきゃいけねぇんだよっ!
「男とキスしたのか?」 「するかボケぇ!!って、え…俺、声出てた?!」 「欲求不満なら俺がしてやろうか?」 「は…?!」 「冗談だ。そんなに引くな」
今の俺には冗談に聞こえねぇんだよ、ボケ!!
「っつーか、お前は男とキスしたいと思うのかよ!」 「思わん」
ハッキリと言った百目鬼の言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。
「だよなぁ〜」
安心した四月一日は、普段百目鬼に対しては見せることのない満面の笑顔で じゃぁな、と帰って行った。 そんな四月一日の後姿を見つめながら、ふっと自嘲気味な笑みを零すと、
「お前を除いて、だがな」
そう、ボソリと百目鬼は呟いていたことなど、四月一日は知る由もない。
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